借金返済のためにブラック本丸を引き継ぐことにした。２【刀剣乱舞】 (ページ13)

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４０．平行線の先にいる者ページ13

「……アンタ、既に実装されていたんだな」

「一応聚楽第を終えたあとには発表されていたのだけど、俺の立場が政府よりなだけに前任はそこまで欲しなかったのだろうね」

心持ち正体を隠していた時よりも砕けた様子で、監査官さんは薬研くんの反応に答えていた。

「俺はきちんと名を示したよ、一期一振。別に俺は彼女の刀剣男士ではないけども、わざわざ彼女に敵対する理由もないからね。君たちの害となるつもりはないけど、そちらが手を出してくるならそれなりの対応はさせてもらうよ」

監査官さんからの回答に一期さんは是も非も言わず。

スッと目を細めて私の方を一瞬睨みつけたのち、そのまま私たちの横を通り抜けてその場から立ち去って行った。

残された者の中で最初に口を開いたのは薬研くんで、真っ先に「すまない」と謝罪の言葉が彼の口から飛び出す。

「一期一振は俺たち藤四郎の長兄なんだが、この本丸でも一番人間に対する敵意が強くってな……刀としての矜持は捨てちゃいないはずだから、いきなり切りかかってくることはないと思うが……」

「兄弟刀のいる刀剣男士がブラック本丸で人間への憎悪を深める例は珍しくない。同派が多く兄弟想いの一期一振は、その筆頭のような刀だ」

薬研くん、厚くん、骨喰くんとこの本丸に残っているだけでも三振りの弟たちがいる。

先ほど読んだ刀帳にも「藤四郎」と名のついた刀は両手じゃ数えきれないほどおり、それらは全て一期一振にとっては大事な兄弟刀なのであろう。

「うちは藤四郎がほとんど残っていないし、鳴狐も俺が顕現した時には既に折られていた……あの人の気持ちも分からなくはないんだ。いち兄のことはもう少しそっとしておいてくれ」
「分かりました。私にも弟はいますから、同じ立場だったら私も相手を、例え別人でも同じような存在だったら恨みます」

現世に残している弟たちに何かあれば犯人は絶対に許さないし、他人も同じように信用できなくなってしまう。

何十振りもの兄弟刀を身近で酷い目に遭わされたであろう一期一振の気持ちは痛いほどよく分かり、だからといって安易に同情して寄り添おうという気もなれない。

私が彼らに対して何もしていないからといって、彼からすれば私も前任と同じ人間であり、出会ったばかりの小娘を信じろだなんて無理な話である。

こうやって薬研くんや燭台切さんたちが友好的に接してくれるのが稀であり、一期一振のような反応をされるのが当然のことであった。