74.『上賀茂愛梨の悩み その拾肆』 ページ29
「……そう来たか」
私は肩を竦めた。別にもう、なんとも思っていない。思っていない、はずだ。
ただ、何かをあの時置いてきたのは確かだとは思う。私は三人の視線を浴びる中、1つ溜息をついた。
「教えてくれ、はい、と教えるほど、現実は甘くないことを知ったほうがいい。アニメや小説の中の話じゃないんだ。人には踏み入ってはいけない部分がある。それに、
――話す必要すらない」
私の言葉に、愛梨は口を結んだ。安室もコナンも何も言わなかった。っか、お前らに言われたくねえ。特に安室。
「いつも、そうです」
愛梨は涙の膜を瞳に張りながら、私を見つめた。複雑な感情が入り混じった、ああ、所謂、主人公の瞳だ。
「そうやって、何も教えてくれない!私は、先生が、私が先生に会ったとき、スランプだった事を、数年経ってから知りました、教えられました。
私は、先生に弟子入りをしたんです!少しくらい、貴方の辛いことも、教えてくれたって、いいじゃないですか!」
綺麗な瞳から涙が溢れる。本当、少女漫画や夢小説とかに出てくる主人公だなと思った。
「泣くなよ、愛梨」
お前が泣くと、私はどうすればいいのか、分からなくなるんだ。
海月は困ったようにそう声を掛けた。愛梨はそれでも、ぐすぐすと泣いている。安室とコナンは取り残された感に苛まれる中、二人を見守っていた。
これは、師弟の問題だった。
「弟子の前で、かっこいいところしか見せたくない、こんな馬鹿な師匠を許してくれよ」
そう言って、泣きそうな顔で、海月は笑った。愛梨は、さらに大粒の涙を流して、漸く、頷いた。
「先生は、ズルい、ズルいです」
泣き続ける愛梨に、海月は優しい表情を浮かべていた。
「ズルくて、ごめんな」
安室はその光景を見ながら、心底、羨ましいと唇を噛んだ。
――自分には、踏み込めない。
その日、初めて海月は愛梨のことを、弟子だと自分から言った。
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黒井蜜柑(プロフ) - 花枝さん» ありがとうございます!本当に、長らくお待たせしてすいません!週一掲載で続けていけたらいいなと思っていますので、なるべく終了まで更新停滞がないようにがんばります! (2021年5月24日 14時) (レス) id: 17dfef3a09 (このIDを非表示/違反報告)
花枝 - お待ちしておりました!おかえりなさい、これからも応援しています! (2021年5月23日 23時) (レス) id: 43f2320b1e (このIDを非表示/違反報告)
黒井蜜柑(プロフ) - きゃろさん» すいません、長らくおまたせしました!本当に更新停滞気味が多くてすいません。なるべく早くは続きを挙げたいと思いますのでもう暫くお待ちください。 (2021年4月29日 7時) (レス) id: 17dfef3a09 (このIDを非表示/違反報告)
きゃろ(プロフ) - おかえりなさいです!続きが更新されてるのが嬉しくて感想を書いてしまいました!続き楽しみにしています。 (2021年4月29日 2時) (レス) id: d6911c13cc (このIDを非表示/違反報告)
黒井蜜柑(プロフ) - 藤崎さん» 全然大丈夫です!期待に添えれるように、頑張っていきます。本当ゆっくりし過ぎですいません。 (2019年3月22日 23時) (レス) id: 16fd2908cb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:黒井蜜柑 | 作者ホームページ:http://minanami2.naho.ayaka.
作成日時:2019年2月14日 16時