35.『トリプルフェイスの想い』 ページ36
彼女が分かりやすく驚いた所を見たことがない。
同僚の愛梨が、いつものように海月に絡みに行く。自称弟子と豪語するだけある。最初は嫌悪を示していたらしいが、絆されたらしく、今では多少鬱陶しいといいながらも、大切に扱っているようにも見える。
羨ましいなと、思う。
彼女に大切に想われている同僚が。大人気ないが、やはり、思ってしまうのだ。
――俺も、その中に入りたい
彼女が、抱えている世界の中に。
談笑の最中、突如として飲んでいた珈琲のカップを勢い良く置かれる音が和やかな空間を割った。
その音に全員の視線が集中する。その音の原因は、静寂というイメージが強い、海月だった。
カップを置いたまま、パソコンの画面を眺め続ける海月。その表情は、青白い。
その画面に心が囚われていた。何故か、ひやりとした感覚に陥った。安室はカウンターから出ると、彼女に近寄る。不安そうに海月を見つめる愛梨に少し退いてもらい、彼女の名を呼んだ。
三回目で、漸く瞳の焦点が合った。そして、安室をその瞳は捉える。それだけで何故か、安堵した。
まだ青白いが、心ここにあらずといった様子からは脱したようだった。
それでもまだ、画面を見て険しい顔をする彼女をもう見たくなかった。安室は強引に彼女のパソコンを閉じる。
「顔色、良くないですよ。ゆっくり休んだらどうですか?」
安室がそう諭すと、海月は表情を少し緩めて、そして、小さく謝った。
その時の表情は、また、心ここにあらずだった。
それに焦りを覚えた。頼むから、自分を映していてくれとみっともない自分の汚い気持ちが溢れてきそうだった。
「海月先生、何か暖かいものでも食べますか?」
安室がそう声をかけると、海月は少し眼を丸くしたが、直ぐに何時もの吊目に戻って、頼むと頷いた。
カウンターに戻ると、愛梨が安室に耳打ちをした。
「さっきの安室さんの顔、不機嫌って様子が隠されてもいませんでしたよ」
少し楽しそうに話す彼女に、安室もまた海月と同じように目を丸くした。
36.『漆黒を追い続ける者』→←34.『漆黒とは別の謎が蠢く』
733人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
黒井蜜柑(プロフ) - トめAと@とまと:カド松さん» ありがとうございます。 (2022年5月17日 22時) (レス) id: 17dfef3a09 (このIDを非表示/違反報告)
トめAと@とまと:カド松(プロフ) - はい、マジ好きです応援します (2022年5月17日 21時) (レス) id: 8b7bdbc23e (このIDを非表示/違反報告)
黒井蜜柑(プロフ) - トめAと@とまと:カド松さん» それは凄く嬉しいです。愛梨ちゃんがいてこそのこの作品なので是非とも応援してください。 (2022年5月17日 21時) (レス) id: 17dfef3a09 (このIDを非表示/違反報告)
トめAと@とまと:カド松(プロフ) - 夢主っぽいのがいるときいて何だ地雷か?って思ったらバリタイプだだった。 (2022年5月17日 21時) (レス) @page49 id: 8b7bdbc23e (このIDを非表示/違反報告)
黒井蜜柑(プロフ) - 目覚ましさん» そう言って、いただいて幸せです! (2018年12月14日 16時) (レス) id: 16fd2908cb (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:黒井蜜柑 | 作者ホームページ:http://minanami2.naho.ayaka.
作成日時:2018年11月10日 22時