【名探偵コナン】転生作家の心得

18.『上賀茂愛梨の不運　その肆』 ページ19

テーブルの上に置いていたスマホが振動する。そのディスプレイに表示されているのは、愛梨という名で、ここ二日休んでいるポアロのバイトにして、自称弟子である。私は通話を押し、耳へと当てる。

「柚姉、うち、愛梨」

愛梨の言葉に思わず目が点になった。何を言い出すんだこいつは。

「うちね、友達の家おるんよ。彼氏じゃないからね」

誰と勘違いしてるんだ。柚姉って誰だ。しかし、なんか妙だ。脈絡がなさ過ぎる。何か、何かあるのか？

「一週間程、泊まるから。流石にマズイから誤魔化して」

全く話が分からないが、何となく意図があるんじゃないかと思ってきた。コナンだし。

「辻叔母さんの小遣い貰っといて。自分だけは無しよ」

愛梨の意図を読み取れ。国語でよくやったじゃないか。

「ん？辰さんもくる？寿司とかいいな。けど、まあいいや。てなわけで、よろ」

ぷつりと、切れた電話と今までの会話を思い出しながら思考を駆け巡らす。

「誰からだったんですか？」

安室が最早勝手にハムサンドを持ってきた。それは見えているが、全然聞こえない。違和感は一人称だ。愛梨は"私"だ。何故"うち"を使ったかだ。待て、文章にしてみればどうだ？脳内で文章へと変換する。

柚姉、うち、愛梨。
うちね、友達の家におるんよ。
彼氏じゃないからね。
一週間程、泊まるから。

頭文字を取るだけの簡単な暗号だ。確かに、文章にしない限りよく分からない。考えたな。でもメールにしろ。

そうなると、これは、"ゆうかい"となる。確実に誘拐しかない。

流石にマズいから誤魔化して
辻叔母さんの小遣い貰っといて。
自分だけは無しよ。
ん？

次は、"さつじん"となる。殺人しかないね

辰さんもくる？
寿司とかいいな。
けど、まあいいや。
てなわけで、よろ。

そして次は"たすけて"となる。つまり愛梨は殺人現場を見て誘拐されたというわけか。そして考えると、二日前に起きた殺人事件と愛梨の行き先を辿ればどれに巻き込まれたか分かるか。いや、何か見たぞ。ここ近辺で、この間愛梨はパフェに行ったとSNSに載せていた。

"サラリーマンの殺人事件"

まだ犯人は見つかっていないという。それに巻き込まれた可能性が高い。

安室は私の顔を覗き込みながら、不思議そうに見つめている。私は彼を一瞥し、メモ帳を取り出して一枚破る。そしてあることを書き、押し付けた。

「頼むぞ、探偵」

私だけでは、きっと無理だ。そして代金を払い、外に出る。愛梨には、手を出させるわけにはいかない。

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