虫の正体 ページ2
「あ、嫌だ。食われる」
虫を引っこ抜こうとすると、クラウディに止められた。
「駄目だ」
「何で? こんなに気持ち悪い虫を、体に入ってこようとしてるのに、どうして」
「それは点滴の管だ。虫じゃないから抜くんじゃない」
「は? でも……」
「大丈夫だから」
「……お前がそう言うなら。でも、やだ。怖い。虫は嫌いなんだ」
「大丈夫だ。うーん、ブドウ食べるか?」
「食べる。よこせ」
クラウディはベッドのそばの小さなテーブルに置かれたフルーツかごからブドウを取り出す。
一粒一粒が大きくて美味しそうなブドウ。
「このまま渡せばいいか?」
「ダメって言ったら?」
「あーん、ってしてやる」
ブドウを一粒取って、クラウディは冗談っぽく言った。
「……いいな。いい、してくれ」
「マジか」
「してくれるならやってもらう。そうだ、…………虫は? さっきまでいたのに。俺は、なにを……」
さっきまで嫌だったのが何かわからない。
虫って?
腕に刺さってるのは点滴のやつだ。これが虫? 馬鹿か? どう見たって違うのに。
「あー、えっと。んん? はぁ。あれ? ……まぁいいや、ブドウくれ」
食欲に負けた。
「……あー、分かった。ほれ、あーん」
言われたとおりに口を開けると、ブドウが一粒口に放り込まれた。
やっぱり美味しいブドウだ。でも、皮を取らなかったから、後から渋いのが来て不快だった。
「美味いか?」
「皮は好きじゃない。剥いてくれ」
「面倒くさいやつめ」
そう言いながらも、ちゃんと皮を剥いているところはいい奴だと思う。そういうところを打ち消してもお釣りが来るくらい悪いところが多いが。
「ほら、これがお望みなんだろう、レインさんよ」
「ん」
今度はちゃんと皮を剥いたブドウが口に放り込まれる。
噛むとブドウの中で固いものが潰れる感じがした。変な味がする。美味しくない。
「種が入ってる」
「悪いがそこまでは面倒見きれないよ、自分でどうにかしてくれよ」
「じゃあ、もういらない」
「いいのか?」
「別のが食べたい。他に何がある?」
クラウディはブドウを一粒自分の口に放り込んだ後、フルーツかごの中身を確認した。
「んー、オレンジ、バナナ、キウイ、まるごとのパイナップルに青リンゴ。どれがいい?」
「そうだな……」
答えようとした瞬間、誰かが病室のドアを開けて入ってきた。
「先輩、先輩が言ってた飲み物買ってきましたよ」
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秋瀬 チグ - 僕にもその文才分けて欲しいです・・・!分かりやすく、丁寧で読みごたえがありました。これからも頑張って下さい!コロナに気を付けて。 (2020年12月25日 23時) (レス) id: 4021f55887 (このIDを非表示/違反報告)
翡翠 - 起こっていることが想像しやすい綺麗で簡潔な文章…見習いたい…そして、続きが凄く気になる!これからどうなっていくのか…無理せず更新頑張ってください! (2020年1月2日 23時) (レス) id: 9fc4b0a5df (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:衛生兵079 | 作成日時:2018年11月5日 21時