非現実と現実の間 ページ8
こちらに背を向けて立っている長身の男は私の存在には気がついていないらしく、一人でうんうんと唸っていた。
しばらくそうしているのを見ていると、男の首がぐらりと揺れて頭が体を離れ、地面に落ちてしまった。
でも頭は完全に取れた訳じゃない。消化器官は繋がっているので体の中から引っ張り出された出された食道や胃が見えてしまっている。
「何してるの? 私の部屋で」
私が声をかけると、彼は頭だけこちらを向いた。
「考え事さ。君のことを考えていた」
「私の?」
「そうだ」
「考えすぎて頭を落としちゃう程考えてくれてたの?」
「そうだ」
落ちた頭を拾って、こちらを向いた体に手渡す。
「ほら」
「ありがとう」
そう言ってこちらを向いた体は頭を受け取ると、左右が逆になっている手で消化器官を体の中に押し込んで頭を元の位置に戻した。
元の位置に戻しても少し異和感があるのか、何回か外したり、ずらしたりして丁度いい位置を探していたが諦めたらしく、いじるのをやめ、胸に手を当て笑って見せた。
「これでいいかな? それでは君の話をしようじゃないか」
「あー、うん」
「まず一つ、君は今いくつだ?」
「17もうすぐ18」
「そうだ。君はもうすぐ18だ」
「それが何?」
「君は……、自分が大人だと思うかい?」
「…………」
「ここは現実で、君は大人になる。そうだろ?」
「うん。そうだけど……」
「正直な話、君が大人になる、そう考えたら怖くてたまらなくなった。大人には私の姿が見えないからな、一緒に遊ぶことや、こうして話をすることもできなくなってしまう。そう考えたら怖くて、寂しくて、どうしたらいいか分からないんだ」
「大丈夫だよ。ずっと一緒にいようよ」
「ありがとう、嬉しいよ。でも、私は君とさよならをしなくちゃいけないと思うんだ」
「どうして? いなくなっちゃたら寂しいよ、だから……」
ドアが開く音。
「あんた何やってんの? また一人で喋って、気持ちが悪い。それやめなさいって言ったでしょ? 周りの目も考えてちょうだい」
ドアを開けて入ってきた母親が言う。
「……分かった」
「ったく、いい加減にしてよね。もう18になるんだから、大人になりなさい」
そう言って乱暴にドアを閉め母親は行ってしまった。
「やはり、私は消えるべきだな」
「え?」
「今までありがとう。さよならだ」
気がつけば彼の姿は跡形もなくなっていた。
私は一人、残されてしまった。
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ワモテ(プロフ) - この独特な世界観が好きです! (2022年6月28日 19時) (レス) @page4 id: d60369b53d (このIDを非表示/違反報告)
切り紙 - 衛生兵079さん» やっぱりそうでしたか!ありがとうございます! (2022年4月12日 21時) (レス) id: 3ea5ee90fc (このIDを非表示/違反報告)
衛生兵079(プロフ) - 切り紙さん» 同じお店です。女性はそのお店の店長さんです。 (2022年4月12日 20時) (レス) id: fb9fb2071f (このIDを非表示/違反報告)
切り紙 - 衛生兵079さん» あ、あっ…!上手く言い表せないんですけどもう全部好きです((それで思ったんですけど、この話の女性が開いてるお店って道案内に出てきたおじさんが言っていたのと同じですかね? (2022年4月12日 20時) (レス) @page38 id: 3ea5ee90fc (このIDを非表示/違反報告)
衛生兵079(プロフ) - 切り紙さん» リクエストありがとうございます。風、空ですね、了解しました。 (2022年4月12日 10時) (レス) id: fb9fb2071f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:衛生兵079 | 作成日時:2017年12月25日 23時