テレビ ページ46
それは、古ぼけ色褪せたアンテナ付きのブラウン管テレビだった。
初めはとある工場で造られ、出荷され、店頭に並べられ、購入され、ある家族の元へとやって来たただのなんの変哲もないブラウン管テレビだった。
まだテレビというものが珍しかった時代。
街頭のテレビや、近所のテレビを持っている家に大勢の人が詰め掛け、画面の向こうの白黒の映像に大人も子供も目を輝かせていた時代。
そこが彼の絶頂期だったとも言える。
時は流れて、白黒ではなくカラーのテレビが主流になり、どの家庭でも手が届くような価格になり、時代遅れの彼の価値は下がっていった。
ある日、新しいテレビが彼の居る家へとやって来て彼は役目を終えた。
だが彼は捨てられることはなく、元々入っていた箱に詰め直され、狭い物置へと押し込められることになる。
然るべき場所へ持っていって処分してもらう、それまでそこに置いておく。家族はそのつもりだったが簡単に忘れ去られ、彼は箱の中で長い年月を過ごすことになる。
何十年も時が過ぎ、箱型のテレビが薄いテレビにすっかり置き換わった頃、物置の戸が音を立てて開いた。
戸を開けたのは、彼を購入した男の孫だった。
祖父母が亡くなり誰もいなくなった実家を片付けるために両親と訪れ、物置の整理を任されたのだ。
手際よく物置の中の物を運び出し、両親にどうするべきか聞いていると、先程出したばかりの箱の1つが小刻みに震えている。
孫は何事か、まさか生き物でも入っているのではないかと恐る恐るその箱を開けようとしたとき、ガムテープでとめられた蓋が勢いよく開いた。
勢いよく飛び出してきたのは人間の腕。
その勢いで箱が倒れ、中の物が飛び出してくる。
それは間違いなくテレビ、だったが底面から腕が一本生えていた。
テレビは電源コードが巻き付いた腕を動かし、箱の中から完全に出ると自身が入っていた箱を遠くへと投げ捨てた。
そこからあっという間に足が、胴が、そしてもう片方の腕が生え、人間の体にテレビの頭という不自然な姿が出来上がった。
まだ安定しない首をぐらぐらさせながら、孫をじっと見つめる。
実際は目がついているわけではなのでそう感じた、というだけだが。
彼は震える指で孫を指差し途切れ途切れに音を出した後、あまりの出来事に何もできずにいる孫を尻目にどこかへと歩き去ってしまった。
その後どこへ行ったか、何をしているかは知る由もない。
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ワモテ(プロフ) - この独特な世界観が好きです! (2022年6月28日 19時) (レス) @page4 id: d60369b53d (このIDを非表示/違反報告)
切り紙 - 衛生兵079さん» やっぱりそうでしたか!ありがとうございます! (2022年4月12日 21時) (レス) id: 3ea5ee90fc (このIDを非表示/違反報告)
衛生兵079(プロフ) - 切り紙さん» 同じお店です。女性はそのお店の店長さんです。 (2022年4月12日 20時) (レス) id: fb9fb2071f (このIDを非表示/違反報告)
切り紙 - 衛生兵079さん» あ、あっ…!上手く言い表せないんですけどもう全部好きです((それで思ったんですけど、この話の女性が開いてるお店って道案内に出てきたおじさんが言っていたのと同じですかね? (2022年4月12日 20時) (レス) @page38 id: 3ea5ee90fc (このIDを非表示/違反報告)
衛生兵079(プロフ) - 切り紙さん» リクエストありがとうございます。風、空ですね、了解しました。 (2022年4月12日 10時) (レス) id: fb9fb2071f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:衛生兵079 | 作成日時:2017年12月25日 23時