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喜劇でなれけば ページ31

私には力がある。

 厳重に管理された本の中へと飛び込み、今まさに悲劇で終わろうとしている物語を救済し喜劇へと導くことができる力だ。

 そして今、目の前では悲劇のヒロインが死のうとしていた。

 彼女は生涯で初めての恋をした、しかしその恋は家柄、情勢、両親、戦争、数多くの障害が存在していた。

 それでも二人は想い合い、やっと、ようやく結ばれるというところで恋した彼は二人のことを知った彼女の父親に剣で無残にも斬り殺されてしまった。

「あぁ、愛しいあなた。今あなたのところへゆくわ」

 毒薬を飲み干そうとする彼女の手を止める。

「あっ! え、あなたは……」

 驚く彼女の手を離し、軽く一礼をする。

「初めまして、お嬢さん。まだあなたは死ぬべきではないです。あなたがここで死んでしまっては、この物語は悲劇で終わってしまう。悲劇にしかならない。あなたのように純粋でとても美しい人をここで悲劇で終わらせてしまうのはいけないことです」

 彼女の手から毒薬の入った瓶が滑り落ち、地面にぶつかって中身が飛び散ったが、話を続ける。

「だから、私はあなたを幸せにしてやりたいと思い、監視の目をくぐり抜けここまでやってきたのです。あなたを幸せにするため、この物語を喜劇、パッピーエンドで終わらせるために」

「それは、いったいどういう……」

 私が手をかざすと彼女は糸が切れたように倒れ、すやすやと寝息を立てて眠り始めた。

「大丈夫。目が覚めた時には全て良くなる。彼は死なず、二人は結ばれ、手を取り合いながら美しい花畑の中をゆくのです。二人が老いて死ぬまでその幸せが続くのです」

 物語を変えていく、二人を幸せにするため辻褄を合わせていく。

 結末だけを改変しても意味がない、最初から変えなければ。最初からその結末に自然に向かうよう、始めからそれが正しい物語だったようにするのだ。

 それでいい。そうでなければいけない。

 悲劇は許せない。不幸な人物がいるのが受け入れられない。

 彼らや、彼女達を幸せにするためならば私はどうなろうと構わないのだ。

 例えこの身が引き裂かれようと、幸せな結末を皆が迎えることができればそれでいい。

 それで私は幸せなのだ。

 ようやく改変が終わった。

 早く、早く次の悲劇へ行こう。

 悲しみの涙ではなく、喜びの涙があふれる。そんな物語にしよう。

夢か鏡か→←落とし物



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ワモテ(プロフ) - この独特な世界観が好きです! (2022年6月28日 19時) (レス) @page4 id: d60369b53d (このIDを非表示/違反報告)
切り紙 - 衛生兵079さん» やっぱりそうでしたか!ありがとうございます! (2022年4月12日 21時) (レス) id: 3ea5ee90fc (このIDを非表示/違反報告)
衛生兵079(プロフ) - 切り紙さん» 同じお店です。女性はそのお店の店長さんです。 (2022年4月12日 20時) (レス) id: fb9fb2071f (このIDを非表示/違反報告)
切り紙 - 衛生兵079さん» あ、あっ…!上手く言い表せないんですけどもう全部好きです((それで思ったんですけど、この話の女性が開いてるお店って道案内に出てきたおじさんが言っていたのと同じですかね? (2022年4月12日 20時) (レス) @page38 id: 3ea5ee90fc (このIDを非表示/違反報告)
衛生兵079(プロフ) - 切り紙さん» リクエストありがとうございます。風、空ですね、了解しました。 (2022年4月12日 10時) (レス) id: fb9fb2071f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:衛生兵079 | 作成日時:2017年12月25日 23時

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