現実より少しずれた世界で

悲劇を喜劇へ ページ4

　なになに…………、人魚姫は海の泡となって消えてしまいました？

　恋い焦がれた王子様はその辺の村娘を選んだというのか！？

　あぁ、可哀想に！ 痛みに耐え、声を失い、一人を想い続けたのにこの仕打ちか！

　あんまりじゃないか！ 純情は海の泡となり消え、醜い心がすべてを奪った！

　今すぐこの物語に救済を！

　だが、書き換えるのは容易いが、あいつらに怒られるかもしれなぞ。

　いいや。そんなこと構うものか。

　この哀れな人魚に救済を与えるべきだ！

　全てを都合の良い方向に変えることはできないが、結末くらいは変えてやれる。

　せめて、海の泡へとなってしまわないように。

　さぁ、ほら。

　その手に持ったナイフで王子様の胸を刺し貫くんだ！

　溢れ出た血で薬を作れば、きっと君は救われる。

　人間の両足の痛みも辛い恋心も忘れて、人魚として海に帰ろう。

　出来ないのならば私が手を貸そう。

　ほら、刺せ！

　命の恩人の顔すら分からない愚かな王子だ！ こんなやつより、もっと良いやつがいる！

　殺せ！ 人魚姫！ その王子を殺すんだ！

　そしてまた新しい運命の出会いを約束しよう！





　…………何故泣くんだ。

　このままでは君は、海の泡となって消えてしまう。

　それでもその愚か者を愛していたというのか。

　しょうがない。

　結末ではなく、最初を変えるとしよう。

　王子の乗った船は沈まなかった。

　人魚姫は人間に憧れたまま海で一生を終えた。

　これは違う。

　違う。

　望んだ結果ではない。

　ただ、私は。

　海の泡とならないように、ハッピーエンドになるようにしたかった。

　そうか。

　村娘を殺せばよかったのか？

　でももう干渉できない。物語を改変することはできない。

　一つの物語につき一度までだ。

　それが今の私の限界。

　もうどうしようもない、ただ後悔するしかない。

　あいつらが来た、早く逃げよう。

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