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疲れてしまった ページ28

私はもう、疲れてしまった。

 お化粧やお洒落をするのは当たり前だって、いろんな人に言われてやってきた。

 本当は嫌なのに顔によく分からないものを塗ったり、好きな格好をしたらぐちぐち文句を言われて、もう嫌になっちゃった。

 マナーとかルールとか聞いたことないものを、当たり前だって、常識だって怒鳴られて、どうしたらいいか分からないの。

 嘘をつくな正直に自分が思ったことを言えって言うくせに、正直に言ったら怒られるから嘘をつくしかないの。

「もう、疲れた。嫌んなっちゃったの」

 私がそう言うと、ずっと静かに話を聞いてくれていた彼が口を開いた。

「じゃあ休めばいいじゃないか。自分の好きなことをやって、自分の好きなカッコで、自分が思ったことを正直にぶちまければいいじゃないか」

「……そういうわけにはいかないの」

「どうして?」

「こっちの世界じゃ、そんなの通用しないよ。無責任だって、人間として失格だって怒られちゃうよ。そうしてどこにも居場所がなくなっちゃう。皆が自分の好きなことをして、何にも縛られず自由に生きているあなたの世界と違うんだよ」

「だったら、私の所へ……」

「ごめんね、それは無理」

 私がそう答えると、彼は目を丸くした。

「でも、この世界が嫌だって」

「そりゃ嫌だけど、こっちの世界には私の好きなものがたくさんあるし、大事なものもある。それにせっかく苦労して手に入れた立場を手放したくないし」

「あ、あぁ……、き、君は大人だからな……」

 彼は動揺していた。

「その、あの、頑張って……」

 いつの間にか彼の姿は空気に混ざるように揺らいで、透け始めていた。

「きっともう、2度と会うことはないだろう、それじゃあ、さよなら」

 そう言い残して彼は消えてしまった。




 あれから数年が経った今でも考える。

 あの時、行くと答えていたら、どうなっていたのだろう。

 彼の話でしか知らなかった、彼の世界はどんなものだったのだろう。

 そもそも彼は何だったのだろう。

 たまにネット上などで、子供にしか見えない人間や化け物の話を目にする。

 彼もその類いだったんだろうか。

 そうだとしたら、あの時まだ私は子供だったんだろう。

 彼の誘いを断ったあの瞬間に、私は完全に大人になってしまったんだ。

 だから彼は消えたんだ。

 いや、消えたんじゃない。

 私が彼を見ようとしなくなってしまったんだ。

最期の時は→←公衆電話



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ワモテ(プロフ) - この独特な世界観が好きです! (2022年6月28日 19時) (レス) @page4 id: d60369b53d (このIDを非表示/違反報告)
切り紙 - 衛生兵079さん» やっぱりそうでしたか!ありがとうございます! (2022年4月12日 21時) (レス) id: 3ea5ee90fc (このIDを非表示/違反報告)
衛生兵079(プロフ) - 切り紙さん» 同じお店です。女性はそのお店の店長さんです。 (2022年4月12日 20時) (レス) id: fb9fb2071f (このIDを非表示/違反報告)
切り紙 - 衛生兵079さん» あ、あっ…!上手く言い表せないんですけどもう全部好きです((それで思ったんですけど、この話の女性が開いてるお店って道案内に出てきたおじさんが言っていたのと同じですかね? (2022年4月12日 20時) (レス) @page38 id: 3ea5ee90fc (このIDを非表示/違反報告)
衛生兵079(プロフ) - 切り紙さん» リクエストありがとうございます。風、空ですね、了解しました。 (2022年4月12日 10時) (レス) id: fb9fb2071f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:衛生兵079 | 作成日時:2017年12月25日 23時

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