彼が来た ページ26
今夜も彼がやって来た。
カランカランと音を立て、扉を開いて彼が来た。
街灯のような頭で夜のように黒い外套を着こんだ彼は人間ではない。
左手の黒いカンテラを玄関のすぐ横の戸棚に置き、右手の赤い手斧を戸棚にしまうとゆっくりとこちらを向く。
「こんばんは」
低く掠れた声で言う彼の後ろには、幼い少女が立っていた。
「また連れてきてしまったの？」
私が聞くと彼は少女の手を左手で優しく握った。
少女は彼を見て、不思議そうな顔をしていた。
「可愛かった。愛しかった。だから連れ帰ってしまった。でも一人だけです。たった一人。今日は、一人しか連れてきてない」
「そう。それで、あなたはこの子をどうするつもりなの？」
私がそう聞くと、彼は頭を抱えてしばらくうんうん唸った後、絞り出すような声で答えた。
「私の側に置きたい」
「あなたにその子の面倒が見れるの？」
「……見れる」
うつ向いて小さな声で彼が言う。
「本当？ あなたはそうやって子供を連れてきて、結局一ヶ月と経たずに無くしてしまうじゃない。きっとその子もすぐ無くしてしまうわ」
「でも……」
「でもじゃないでしょ。ホントのことじゃない、この間だって大事にするって連れてきた子を図書館で無くしてきたでしょ。あなたに子供の世話は向いてないのよ。今すぐその子を元の場所へ返してきてちょうだい」
「でも、一人は嫌です。一人は。寂しくて。泣いてしまいますから」
「きっとその子の両親は泣いているでしょうね、大事な我が子がいなくなってあなたよりも寂しくて辛い思いをしていることでしょう」
「……」
「だからお願いよ。その子を元の場所に返してきなさい」
「……分かりました」
そう言うと彼は少女の手を引いて、赤い手斧を懐にしまい、黒いカンテラを右手に持って出ていった。
カランカランという音が遠ざかっていく。
その後、彼は帰ってこなかった。
カランカランと彼が来る、さみしんぼうのひとりんぼ。
一人が怖くてやって来て、一人でいる子を連れていく。
連れていかれた子供らは、二度と現実帰らない。
帰ってきたのは一人だけ、無傷で一人家戻り。
その子が語る彼のこと、彼は優しい人だった。
温かい手で手を引いて、一緒にいたいと泣いていた。
今でも彼は側にいる、一緒にいようと言ったから。
彼はもう子を拐わない、心の隙間が消えたから。
カランカランと聞こえても、逃げる必要どこもなく。
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ワモテ(プロフ) - この独特な世界観が好きです！ (2022年6月28日 19時) (
レス) @page4 id: d60369b53d (このIDを非表示/違反報告)
切り紙 - 衛生兵079さん» やっぱりそうでしたか！ありがとうございます！ (2022年4月12日 21時) (レス) id: 3ea5ee90fc (このIDを非表示/違反報告)
衛生兵079(プロフ) - 切り紙さん» 同じお店です。女性はそのお店の店長さんです。 (2022年4月12日 20時) (レス) id: fb9fb2071f (このIDを非表示/違反報告)
切り紙 - 衛生兵079さん» あ、あっ…！上手く言い表せないんですけどもう全部好きです((それで思ったんですけど、この話の女性が開いてるお店って道案内に出てきたおじさんが言っていたのと同じですかね？ (2022年4月12日 20時) (レス) @page38 id: 3ea5ee90fc (このIDを非表示/違反報告)
衛生兵079(プロフ) - 切り紙さん» リクエストありがとうございます。風、空ですね、了解しました。 (2022年4月12日 10時) (レス) id: fb9fb2071f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：衛生兵079 | 作成日時：2017年12月25日 23時
