現実より少しずれた世界で

道案内 ページ36

よう、そこのお嬢さんよ。おじさんの話を聞いてくんねぇか。

　いやなに、別に悪いことしようってわけじゃあないんだ。

　ちょっと聞きたいことがあるんだ。

　雨雲を売ってる店ってどこにあるか知っているかい？

　ほら、あの天気を売ってる、あー、なんてったかな。あの、フェザーなんたらって店だ。

　……あぁ、そう。それ、その店だ。

　年食ってくるとこんなことも覚えられなくなっちまうんだ。

　それで、その店の場所をお嬢さんは知ってるか？

　え。お嬢さん店の人なのか？

　お店のお使い？ はぁ、そんなにちびっこいのにえらいねぇ。

　連れてってくれるのか、ありがとよ。おじさん方向音痴だから助かるよ。

　それじゃあ、行こうか。

　……はぁ。この街は何でもでかすぎるんだよなぁ。

　地図の上じゃ1つ目の角が5キロも先なんだ。

　そら、このあたりはでかい奴らが住んでるから当然ちゃっあ当然なんだけどさ。

　おじさんとか、お嬢さんみたいな大きさの連中が勝手に抜け道ボコボコ開けて、それがなんの違和感も無くあるから訳が分からなくて。

　もっとこう、優しい作りになんないもんかね。

　そういや、お嬢さんはこの辺に住んでんのかい？

　あー、あそこな。あそこは良いところだよ。ただなぁ、あそこの管理人とはあまり……。

　いや、仲が悪いっていうか、相性が悪いっていうか、その、嫌い合っているわけではないんだけどお互いの特性？ みたいなのが噛み合わなくてさ……。

　ほら、あそこって乾燥してるだろ？ おじさんさ、乾燥に弱いんだよ。

　乾くと割れちゃうの。肌とかじゃなくて体が。

　もうバッキバキ。

　おじさんの粘土で出来た体にはきついのよ、あそこ。

　……そう、だから雨雲が欲しいんだ。

　自分用の小さいやつ、小雨、霧雨くらいのやつが欲しい。

　お嬢さんの店に置いてある？

　あぁ、そいつは良かった。

　そんぐらいだったら、水を吸いすぎてふやけることも、乾きすぎて砕ける心配もないからね。

　それがあれば、あいつのとこに遊びに行ける。

　あいつさ、紙だから湿気に弱いのにこの前遊びに来てくれたんだよ。頭の上に小さい太陽のせてさ。

　聞いたらお嬢さんの店で買ったって言うじゃないの。

　だからおじさんもあいつのとこに遊びに行きたいんだよね。

　あぁ、今から楽しみで仕方ない。

　とびきり良いのを買わせてくれよ。

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