ヒトゴロシは語る

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ルナはいつもどおり何の疑いもなく俺の隣に乗ってきてさ、シートベルトしめてありがとねって言うんだよ。

　車のドアってさ、運転席のドアをロックしたら他のドアも全部ロックされるの、知ってるよな。

　そんで、その前に車を整備してもらったときに整備士が車の中に忘れてったレンチがドアポケットにあったからさ。

　そいつでぶん殴ったんだ。

　当然ルナはパニックになって逃げようとするんだけど、シートベルトしめちゃってる上にドアもロックされてるからすぐに逃げられなくなってるんだよ。

　シートベルト外して、ロック解除すれば逃げられるのにパニクってまともな判断ができなくなっててさ、ただ騒ぐだけ。

　ずっとここにいて声を聞いた人が来たら困るから、車発進させてさ、運転しながら片手で何回も殴って静かになるまでやってた。

　事故りたくはないから前向いて運転して、ルナの方はあんまり見ないようにしてたよ。

　レンチを振り下ろすたびに腕とか肩とかに当たって、たまに頭に当たるとラッキーって感じがした。座席とかに当たったときは残念って感じでそういうゲームみたいで楽しかった。

　あの、目隠しして吊るされた人形叩くあれみたいな感じでさ。

　でしばらくして静かになって、動かなくなったから殴るのやめてこれどうしようか考えながら走ってたらさ、なんかボソボソ聞こえるんだよ。

　何だ？ と思って耳すましたらさ、まだ生きてたんだよ。

　助けて、とか言ってた。

　ちょうど赤信号だったから今度はちゃんとルナの方見てさ、一発ぶち込んだら今度こそ本当に死んだよ。

　で、そんときのルナの顔がさ、まるで別人だったんだ。

　だからさ、俺さ、ルナの顔他のやつよりも一つ多く知ってるってことになると思った。しかも誰も見たことのない、見る機会のない顔を。

　飯屋のルナと、別の仕事のルナと、死んだルナ。

　あー、プライベートのルナは知らなかったな。

　でもこの死に顔は俺しか見れないって、ちょっと特別感があったね。

　店の常連共に自慢してやりたかったけど、まぁ、しなかったよ。

　え？ 死体？

　……死体は埋めたよ。

　山の中、あー、ほらあのクソ野郎の近くに。

　だから埋められたのが5年前と1年前の男女の死体が出てきたらそれがあいつとルナだ。

　頑張って掘り起こしてやってよ。刑事さん。

　ルナの方は手伝ってくれるやつがいなかったからかなり浅めに埋まってる、だから結構見つけやすいと思うよ。

　へへへ。

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