病気とは言わないで

いちばんおいしいもの　２ ページ41

白い廊下に二人の足音だけが響く。私達以外の誰の姿も見えなかった。

「ねぇ、ユカ」

　突然ジャックが口を開いた。

「ボクね、髪の毛って苦手なんだ」

「……髪の毛？」

「口の中にいつまでも残って、気持ち悪いから苦手なんだ」

「そう…………」

「だから、イートは食べないよ。大丈夫、ずっと友達でいられるから」

「……あぁ、えっと、よかった？」

「あ！ ユカも食べないから大丈夫！ ホント！ 忘れてた訳じゃないから！」

　ジャックは大袈裟な身振り手振りで、私を食べる意思はないということを伝えようとする。

　それがどこか可愛らしいと思った。

　そうこうしているうち、私達の病室はもうすぐそこだった。

「あっ」

　急にジャックがバタバタと駆け出した。

　慌てた様子で病室の前まで行くと、扉を開けた。

「れでぃーふぁーすと！ お先にどうぞ！」

「……え？」

「アリスに教えてもらったんだ！ 女の子には優しくしろって！」

　期待したような顔でスライド式の扉を押さえたままジャックは、私が先に病室に入るのを待っている。

「ありがとう……」

「どういたしまして！ うわっ！」

　私に続いて病室に入ろうとしたジャックがドアに挟まってしまう。

　その姿がなんだかおかしくて、つい笑ってしまった。

「あ、笑った」

　そんな私を見て、ジャックも笑った。

「ユカは笑ってた方がいいね」

「え、あぁ……」

　そう言われた途端、なんだか恥ずかしくなってしまい、なんとも言えない感じになってしまった。

　嬉しいけど、嬉しすぎたのかもしれない。


　
　

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