柵を越えない羊を数える 5 ページ32
「ひゃっ……」
びっくりするほど冷たい手。
「おぉっと、すまない。冷え症なものでね。どうしてもこんな日は手足の先が冷えてしまうんだ。君の手は温かいね」
そう言って、スリープさんはにっこりと笑った。
「そうだ、名前を教えてくれるかい? お嬢さん。少しでも多く君のことを知っておきたいのでね」
「あ、ユカ、です……」
「そうか、ユカというのか。覚えておくことにしよう」
「……自己紹介は済んだの?」
若干飽きたような感じで、アリスさんが言う。
「もういいんじゃないの? スリープ。私たちお風呂に入りたいんだけど……」
「あぁ、そうか。邪魔してしまったね、申し訳ない。でもどうしても誰かと話したかったんだ。昨夜は話し相手が居なくて寂しかったからね……」
「どうして? 彼女いなかったの?」
「そうなんだよ。昨日の夕方5時頃から彼女の姿を見ていないんだ。アリスは見ていないか?」
「私は見てないわよ」
「そうか……。ユカは見ていないか? 水色の髪をした君と同じくらいの少女だ」
2人の視線がわたしに向けられる。
でも、昨日会ったのはアリスさんとロウさん、それとジャックくらいで、それらしい少女は見かけていない。
「いや、見てない……です」
「困ったなぁ。彼女も最近来たばかりなんだがね、そりゃもういい話し相手なんだ。朝まで僕の話を聞いてくれるしね」
「はぁ……、そう、ですか」
「貴方と同じ病室なんて、彼女可哀想だわ。貴方のお話にずっと付き合わされるんですもの」
「そんなこと言わないでくれよアリス。なるべくしてなったんだどうしようもないよ。僕の話に付き合わせてしまってすまないね。他をあたるとするよ」
「そう」
それじゃあ、とスリープさんは階段の方へ向かって数歩歩いた後、こちらを振り向いた。
「ユカ」
「……はい?」
「いつか僕と話をしよう。君のことをもっと知りたいしね」
そう言うと、にこりと笑ってスリープさんは行ってしまった。
私にはよく分からない人だった。
私と真逆で、よく喋る人。私もあのぐらいはっきり自分の考えを喋れたら……。
「行っちゃったわね……。私達も行きましょうか、ユカ」
「あ、はい……」
アリスさんに背中を押され、私達は大浴場へと向かった。
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闇の花 - イラスト方も全部見せてもらいました!!イラストも本編も両方神です!!キャラクターに恋して見に来たらもっと萌えました♡ (2021年10月31日 21時) (レス) id: c41fddad3f (このIDを非表示/違反報告)
玄米 - これを読むために占いツクール開いています!全部ではないですがほぼ読みました。面白かったです!ここまで読んだのはこの作品が初めてです。 (2021年1月5日 19時) (レス) id: 7e3b04a730 (このIDを非表示/違反報告)
こと(プロフ) - ジャックがすごい好きです!!面白くて一気読みしました。その後、もう一度じっくり読むと、「やっぱおもしろい……!」ってなります。神作品!!! (2020年12月23日 21時) (レス) id: 70c8834e49 (このIDを非表示/違反報告)
lkwisterven - 201号室の二人がなぜかカップルに見えてしまってあああああああってなった (2020年1月5日 0時) (レス) id: c9c05fe7f4 (このIDを非表示/違反報告)
空百合@募集企画運営のため低浮上(プロフ) - 続編移行ですね……!これからどんな患者たちが出てくるのか、患者たちの病気は治療されるのか、気になることがまだまだたくさんあります…… (2018年6月10日 7時) (レス) id: 3dba0349b8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:衛生兵079 | 作成日時:2017年10月8日 17時