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「ヒョン、すごい女の子が入ってきたって！」
つい先ほどラップのレッスンが終わったばかりの
人も疎らな練習室Cに響く、聞き慣れたハイトーン。
なんだ、すごいって。
何がどうすごいんだよ、そこが重要だろ。
扉を開いたその勢いのまま
こちらに向かってきたと思えば、
鼻を膨らませて話し始めたドンヒョクに
心の中で悪態を吐くものの、
今し方口一杯に含んだミネラルウォーターの所為で
声にならない。
できたのは、What?とでも言うように
両手を宙に投げて眉根を寄せる事のみで、
ごくり、水を喉に流し込んでからやっと
抗議の言葉が出る。
「驚かせるなよ！」
「はあい、すいませんでしたあ。
それより聞いてよ！」
相変わらずこちらの様子を窺おうともせず、
胡坐をかいた僕の足を落ち着きなく
両手でバタバタと叩いてくるそいつに
思わず呆れの溜息がでたが、
その後にすぐ口元に小さな笑みが浮かぶのも
いつものことだ。
憎いくらいに、憎めないやつ。
その後、一通り話が終わる頃には、
僕たちのほかに二人だけ残っていた練習生も
さっさと退散してしまっていた。
好き放題その“すごい女の子”について語るだけでは
満ち足りなかったらしい、
挙句の果てには
こっそり見に行こうとまで宣ったドンヒョク。
この事務所の暗黙の掟である、
異性間交流禁止のルールを
過去に破った(上にバレた)人間の
末路は知っているため、
口を一の字にしてただ只管に首を横に振り続ける。
しかし、こいつが一度決めたら
ちょっとやそっとじゃ
折れるような奴じゃないことも、
悲しいかな僕はよく知っているのだ。
結局いつもの如く、
人よりも強いと自負する僕の忍耐力は
やつの人一倍はある執拗さを前に敗北し、
大人しく問題の練習室前のトイレまで
引きずられて来てしまった。
その子は現在、
ボーカルレッスンを受けているという。
ここでまた一つ、溜息。
どうせ結果が同じならああまでして抵抗する方が
反って体力の無駄というものだ、
いい加減学ぶべきだと言うのに。
本日何度目の溜息かはもう分からないくらいだが、
体感だけで言えば
通常の一年分くらいは今日だけで吐いている。
「後悔はさせないからさぁ、ね？」
やっとこちらの様子を見やったかと思えば、
頭上にハートが浮かんでいるのではと思うくらいに
通常のワントーン上の蜂蜜ボイスで
愛想よく囁くから、
その腹立たしい浮遊物を消すように
思わず頭を軽く叩くのだった。
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Ray.(プロフ) - あいさん» こちらこそコメントとっても嬉しいです、ありがとうございます！できるだけテンポ良く更新できるよう努力しますので、お時間ある時に覗いていただけると嬉しいです。 (2021年7月20日 8時) (
レス) id: 18d9311fdb (このIDを非表示/違反報告)
あい(プロフ) - 更新うれしいですーー！！これからも楽しみにしてます！ (2021年7月19日 21時) (レス) id: b7f70cfb07 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Ray. | 作成日時：2021年6月24日 0時
