二兎を追う者 ページ32
小さくて何でも無い様な事でも私にとっては大切で。懐に仕舞う銀さんからの手紙と、あの日貰った簪を取り出して私は苦笑する。
「待ち続ける事は…間違いなのでしょうか」
闇雲に霧の中を走り続けて、私はもう疲れてしまった。忘れてはいけない事なのに、とても大切なのに…私は時折思うのだ。全て忘れて楽になりたい、と。でも…、
「私、要領が悪いから…上手く割り切れないんです。誰かを利用して、とか…そういうのは嫌なんです」
自分が楽になりたいから、だから副長が差し出してくれた手に縋って、まるで彼を利用する様な…、そんな事出来る筈ない。例えそれが私の救われる唯一だとしても、こんな残酷な事…出来ない。
俯く私の隣に隊長は腰を落ち着けると「そりゃ土方さんの事かィ」と。何故知っているのか驚いて顔を上げれば「土方さんから聞いた」との事。私は「ははは…」と感情なき乾いた笑いをこぼした。
「最低ですよね、迷っている時点で。揺れているって事は…少なからず副長の提案に魅力を感じているって事ですし」
「てめェはそういう女じゃねェだろィ、傷付けず上手く断る言葉が見つかんねェって、そういう事でィ」
「違いますよ…」
そんな良い子じゃないです、私は激しく首を振る。私は隊長の言う様に断る言葉を探している訳では無いのだ、断れないのだ。だって、私は副長を失いたくない、私から離れて欲しくない。
「…っ……うぅ…っひ…うっ……」
泣いてはダメなのに、泣く権利なんて持ち合わせてすらいないのに、私は副長に縋ろうだなんて一瞬でも思ってしまった最低な人間なのに、銀さんを…待つと決めたはずなのに。
なのに、なのに、が重なって。何処にも追いやれない辛さと寂しさが、とうとう堰を切ったように私は泣き出した。もう、嫌だ。失いたく無いのに…今ここで副長まで居なくなってしまったら?そんなの…耐えられる訳がない。
「ふく、ちょ…はっ……やさ、しい…からっ、だから…だからっ……!!」
私が副長を拒んだら、きっと彼は私を困らせまいと潔く身を引く。「無理言って悪かったな」なんて微笑を浮かべて、最後まで私に優しくしてくれる。それが分かっているから私は断る事が出来ない。
本当は銀さんを待ちたい。
だけど副長を失いたくもない。
どちらかを選べば、どちらかを諦めなくてはいけない。きっとどちらを選んでも後悔する、人生の選択肢はそういう風に出来ている。
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月ヶ瀬ましろ(プロフ) - 総悟13さん» 毎度ありがとうございます!涙…と、取り敢えずハンカチをどうぞ!!助けたいのは山々だったのですが今回はここから大きく動くので…どうなるかドキドキして頂ければ嬉しいです( ´ ▽ ` ) (2017年3月4日 21時) (レス) id: 9b1d9c93d0 (このIDを非表示/違反報告)
総悟13(プロフ) - 衝撃のラストに涙してしまいました......。こういう死の縁に立った主人公、ヒロインは助かるのが定番ですが助からないとは......本当に衝撃です。次も楽しみにしています!! (2017年3月4日 12時) (レス) id: 467c9905a7 (このIDを非表示/違反報告)
月ヶ瀬ましろ(プロフ) - 桃乃さん» そうなのですか…!励ましのお言葉、本当に嬉しいです。私も頑張ってこの子を皆さんに愛される子にしたいです、頑張りたいです。応援、本当にありがとうございます。最大の励みになりました!! (2017年2月22日 20時) (レス) id: 9b1d9c93d0 (このIDを非表示/違反報告)
桃乃(プロフ) - お返事ありがとうございます。私も以前、活動させて戴いてたときにスランプになりましたよー!でも、お腹を痛めて生んだ子(作品)は自分が思っているよりも凄く良い出来になってる筈なので自信を持ってくださいねー!応援してますっ! (2017年2月22日 18時) (レス) id: 3b34613ca3 (このIDを非表示/違反報告)
月ヶ瀬ましろ(プロフ) - 桃乃さん» コメントありがとうございます!最近少しスランプ気味で思う様に書けていなかったのでそう言って頂けて本当に嬉しいです。これからも桃乃さんに楽しんで頂ける様に頑張ります。 (2017年2月22日 11時) (レス) id: 9b1d9c93d0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:月ヶ瀬ましろ | 作者ホームページ:http://twitter.com/hearty__smile
作成日時:2017年2月19日 18時