変わらない物 ページ31
***
窓の外から激しい雨音が聞こえる。まるで続いた曇り空が耐え切れなくなって泣き出してしまった様だ。私はぼんやりとそんな雨音に耳を傾けていた。
「俺と一緒にならないか?」
あれから一週間が経った。
あの後、副長は「返事は急がなくて良い」と言った。それから副長と一対一での顔合わせは無かったから、あの話はあそこから進まず止まったまま。
私の足も…止まったままだ。
(銀さん…)
あの日の手紙に副長から言われた言葉を書かなかった。手紙を書き始めて意図的に書かなかったのは初めての事だった。
決して銀さんに手紙が届いている訳じゃないのに…それなのに後ろめたい気持ちがあって書けなかった。副長にあの言葉を言われ、抱き締められて、私は…、
(揺れた…確かに、その手を取りたくなった)
迷ってしまったのだ。副長の言葉に縋りたくなって、諦めてしまいたくなった。この5年間を捨ててしまいたくなった。
どんなに待っても帰らない人を待ち続ける事も、届かない手紙を書き続ける事も、本当は辛くて仕方ない。苦しくて仕方ない。それは誰にも言えない事だった。
(副長は…)
それに気付いていた。私が5年間誰にも言えずに抱えていた事を共有してくれるかも知れない。それはとても幸福で、きっともうそんな人は現れなくて…、
「電気も点けねェで何やってんでィ」
「た、隊長…!」
雨音で気付かなかった、いつの間にか私の顔を覗き込んでいた隊長は「何度も呼んだぜィ」と部屋の電気を点ける。
「無視なんて随分と出世しやがってィ」
「ごめんなさい…少し考え事をしてました」
「ふーん」
興味なさ気な呟き、隊長は部屋の床に散らばる手紙の山に目を向けた。そこから一枚の手紙を摘み上げて「増えたなァ」と笑う。
「もう千通は超えてんじゃねーの?」
「二千近くありますよ」
「よく書いたな…」
流石の隊長もこの数には度肝を抜かれたのか目を白黒とさせた。確かに普通じゃない量だ。私も苦笑を浮かべた。
「毎日…何かを忘れてしまうんです。私、物覚えが悪いのでしょうか、一つずつ…忘れてしまうんです」
「悪ィだろ、ポンコツ」
「ハッキリ言いますね」
いつもの事だろィ、と隊長。そうだ、隊長はいつもこういう風だ。今はそれが何より有難いし、かけがえもない。変わらない物が私にとって何よりだ。
「取りこぼさない様に必死なんです…これ以上、何かを失うのは嫌ですから」
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月ヶ瀬ましろ(プロフ) - 総悟13さん» 毎度ありがとうございます!涙…と、取り敢えずハンカチをどうぞ!!助けたいのは山々だったのですが今回はここから大きく動くので…どうなるかドキドキして頂ければ嬉しいです( ´ ▽ ` ) (2017年3月4日 21時) (レス) id: 9b1d9c93d0 (このIDを非表示/違反報告)
総悟13(プロフ) - 衝撃のラストに涙してしまいました......。こういう死の縁に立った主人公、ヒロインは助かるのが定番ですが助からないとは......本当に衝撃です。次も楽しみにしています!! (2017年3月4日 12時) (レス) id: 467c9905a7 (このIDを非表示/違反報告)
月ヶ瀬ましろ(プロフ) - 桃乃さん» そうなのですか…!励ましのお言葉、本当に嬉しいです。私も頑張ってこの子を皆さんに愛される子にしたいです、頑張りたいです。応援、本当にありがとうございます。最大の励みになりました!! (2017年2月22日 20時) (レス) id: 9b1d9c93d0 (このIDを非表示/違反報告)
桃乃(プロフ) - お返事ありがとうございます。私も以前、活動させて戴いてたときにスランプになりましたよー!でも、お腹を痛めて生んだ子(作品)は自分が思っているよりも凄く良い出来になってる筈なので自信を持ってくださいねー!応援してますっ! (2017年2月22日 18時) (レス) id: 3b34613ca3 (このIDを非表示/違反報告)
月ヶ瀬ましろ(プロフ) - 桃乃さん» コメントありがとうございます!最近少しスランプ気味で思う様に書けていなかったのでそう言って頂けて本当に嬉しいです。これからも桃乃さんに楽しんで頂ける様に頑張ります。 (2017年2月22日 11時) (レス) id: 9b1d9c93d0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:月ヶ瀬ましろ | 作者ホームページ:http://twitter.com/hearty__smile
作成日時:2017年2月19日 18時