拝啓××様 4【銀魂】

最大の絵空事 ページ11

コツン、と神楽ちゃんの頭が私の肩に乗る。私は流れる涙を手の甲で拭って「神楽ちゃん？」と問い掛けた。


「私も…いつもそう思う」


今どこに居るのか、何をしているのか、何を思っているのか。何一つ分からない、そもそも前から何を考えている人なのか分からなかった。分かっているのは底なしの馬鹿だという事だけで。


「階段を登る音、玄関の開く音、…全部が銀ちゃんが帰って来たかもって思わせる。いつも違うけど…そんな事続けて5年目だから、Aの言いたい事は分かる」
「…。」
「何も罪悪感抱く事ないと思う」


そう言って神楽ちゃんは目を閉じた。広がる夜の静けさに溶け込む様に、夢の中に誘われてゆく。私も…ゆっくりと目を閉じた。

目を閉じれば簡単に銀さんの姿は思い浮かぶのだ。私をからかう言葉も、私を見つめる優しい瞳も、別れ際に見た後ろ姿も。全てが昨日の事のように思い出せるのに…、


(思い出せないです、銀さんの声)



忘れたかった事。
忘れたくなかった事。
忘れてはいけなかった事。

どれもこれも大切な事に変わりはないはずなのに、私の頭の中にあるのはいつだって取るに足らない事ばかりで。どうして人は大切な事を忘れたくないのに、忘れるのか。

いつからか銀さんがどんな声で私の名前を呼んでいたのか分からなくなった。どんな声で話をしてくれたのか忘れてしまった。あんなに毎日彼の声を聞いていたのに。


(どんどん忘れていくのかなぁ)


この先、私は他にも忘れてしまうのだろうか。例えば銀さんの笑顔とか、後ろ姿とか。いつかは全部忘れてしまうのだろうか。

こんなにも待つ事が苦しいなら忘れる事は寧ろ良いのかも知れない、でも私は絶対に忘れたくはない、銀さんを待ちたい。そんな矛盾が胸の中で渦巻く。

人間は忘れる動物だ。
だから、いつかは必ず忘れてしまう。そこに残るのは確かな痛みだけだ。

そして忘れて古くなった"かさぶた"を時折見ては笑う。今となっては笑い話だ、なんて言いながら。懐かしく思えるのは何年経ってからだろうか。私にはまだ無理そうだ。

私は銀さんを諦めたくは無い。だけど…いつだって隣に不安はあって怖くて仕方がない。5年経っても臆病は治らない。


(苦しいなぁ)


夜の静寂、肩に重みを感じる。神楽ちゃんも銀さんの残した大切な人、彼女もあの頃よりずっと大人になった。銀さん、驚くだろうなぁ。


その夜、私は夢を見た。まだ銀さんが居なくなる前の幸せだった頃の夢。

それは…最大の絵空事。

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