泡沫の記憶Ⅵ (ページ5)

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『すぐ…ッ呼んでくるから、救けるから…！死なないで…お父さん……』

そう言い残し、手を離そうとする

と、反対にきつく握り返された。

「お別れ、だ……ここに…いてくれ」

『！やッ…絶対、救けるから……おねがい』

行かせて、と懇願するも

ぽん、と頭に乗せられた手。

包み込むような大きな手。

沢山の人を救ってきた大好きな手だ。

「…り、がとう…救け……くれて…」

『おとうさん…？』

「あり…と………あ…がとう、A…」

『お父さんッ！！！』

「うれ…しい、なぁ……おま、え…は…きっと"

"立派なヒーローになれるぞ"

「……A……光……」

ぱたり、と。

その手が落ちた。

『…あ……あぁ…』

"A"

頭の中で父の優しい声が聞こえる。

『…うッ……ああ…！』

"パパはわたしにとってのNo.1ヒーローだよ！"

"Aも俺にとって1番の自慢の娘だよ"

『ぁああああああああ！！！』

何気ない日常。

幸せだったあの頃。

数え切れないくらいのあたたかい思い出が次々と溢れてくる。

嫌だ

嫌だ

嫌だ

行かないで

いなくならないで

『お願い…！誰か…たすけて！！』

握った手に、ポタポタと涙が落ちる。

辺りには、自分のしゃくり上げる声だけが響いていた。

どうして誰も来てくれないの？

あんなに大きな音がしたのに

誰も気づいてくれてないの？

そんなはずない

どうして、お父さんを救けてくれないの？

どうして…ヒーローは誰も来てくれないの？

どうして…！

ふと頭に浮かんだ姿。

それは……平和の象徴だった。

＿＿＿＿＿ねえ、どうして？

オールマイト

どんなに泣き叫んだって、結局ヒーローが来てくれる事はなかった。

ただ、冷たくなっていくその手を握りしめて

声を上げて泣いていた。

父を失った悲しみ、自分の罪、後悔を

全てヒーローのせいにするように…

「可哀想に」

コツン、と靴の音が響く。

涙は枯れる事なく流れ続けて、視界が朦朧とする中

奴は再度現れた。

．