泡沫 ページ21
＿＿＿何度、ここへ来ただろう。
聞こえる波の音。
遠くで鳴く鳥の声。
暖かく照らす太陽。
その光を反射させる水面。
夢の中で何度も見た景色。
幼い頃も…何度も来ていた。
そして、記憶を失ってからも一度だけ、辿り着いた事がある。
『懐かしい……』
浜辺に座り、膝を抱えながらその光景を見つめる。
前に来た時は全く知らない風景だった。
懐かしいと思うのは、その記憶があるから。
大切な人たちと過ごした思い出が、ここにあるから。
＿＿＿＿懐かしいと思える、それが何よりも嬉しい。
数年ぶりに笑った。
そんな私を見て、母は泣いた。
驚いたが、それは嬉し涙で。
いつも笑顔だった母のそんな表情は初めてだった。
"泣かないで"と言ったら、泣きながら笑って
それがおかしくて、また私は笑った。
そんな時間が、幸せだなと思った＿＿＿＿＿
「久しぶりだね、此処で会うのは……Aくん」
『オールマイト…体は大丈夫なんですか？』
しばらく海を眺めていると、ふと聞こえた声。
振り返ると、そこにはオールマイトが立っていた。
私の質問に対し、ゆっくりと頷く。
父と仲が良かったオールマイトとも、よく此処で会っていた。
意識がきちんとある状態で会うのは、神野事件以来。
そんなに日数は経っていないはずだが、すごく久しぶりな気がする。
それと同時に、後ろめたさを感じた。
『私……オールマイトに謝りたい事があります』
「……君の過去の事、光くんから聞いたよ」
『そう、ですよね…お母さんなら、伝えてくれてると思ってました』
「それで、謝りたいとは…？君が謝る事なんてあったかい？」
『私＿＿＿＿＿』
その優しい表情に言葉が詰まる。
だけど、きちんと謝りたい。
『あの時、お父さんの事……ヒーローのせいにしようとしてました。……ヒーローの…いや、オールマイトの、せいに……』
「それは＿＿＿＿＿」
『分かってます、自分のせいだって。
でも、色んな感情がぐちゃぐちゃになっちゃって、最終的に誰かのせいにする事で、楽になろうとしてた……』
逃げようとしてた。
でもそれを許せない自分もいて、葛藤し続けていた。
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作者名：noon | 作成日時：2020年12月1日 1時
