泡沫の記憶Ⅵ (ページ15)

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『皆が時々、辛い顔をするのに気付いてた。

……私がそうさせてるんだって』

「A…」

『記憶が戻ってきたって、誰も幸せになれなかった』

奴が救ったと思っている私の人生は、幸せなものではなかった。

母の辛さや、幼馴染みの葛藤…

ヒーローになりたい心と、扱えない個性。

そこにあったのは、苦しみだけ。

記憶を取り戻して、乗り越える事ができたなら

本当の笑顔が戻ると思ってた。

恐怖を克服できると思ってた。

でも真実を知って、それが更に加速して。

『足掻けば足掻くほど…悪い方向にいっちゃう。

どうすればいいのか分かんなくて、心が空っぽになっちゃって……』

何が正しくて何が悪いのかもわからなくて。

気がつけば、一人で立っていられなくなっていて。

何度も自問自答を繰り返した。

そんな私を、ずっと母は支えてくれていた。

『でもね……笑って欲しい。みんなに。お母さんに。

そしたら私も、幸せになれるって気づいた…！』

私の存在が

私の力が

そんな母を守る事ができるなら＿＿＿＿＿

『もう少しだけ、お父さんとの約束に縋らせて…』

父のために。

母のために。

みんなのために。

………自分のために。

この約束を、果たしたい＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿

「いつまでだって…構わないわ」

『頑張るから…私、ちゃんと、一人で立てるようになるから…』

そして、いつかちゃんと自分を認められるように。

自分を許す事はできないけど

しっかりと前を向ける、強い自分になれるように。

「ええ、Aならできるよ」

そう微笑んでくれた母を見て

嬉しくなって、つられて私も笑った。

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