泡沫の記憶Ⅲ (ページ7)

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その後は軽く他愛もない会話をし、今日はもういいよ、と言われたので席を立つ。

『先生』

ドアに手を掛けながら振り返ると、ん？と目線を合わせてくれる。

『いつもありがとう。私がんばるよ』

成長するにつれて、段々と敬語を使うようになった。

なんでか分からないけど、ふと、昔のように話してみたくなった。

「うん！」

そう言う先生は笑顔で手を振ってくれた。

＿＿＿

誰もいなくなった部屋。

「あ、もしもし。お久しぶりです。…Aちゃんの件で……」

Aが出て行った後、一本の電話をかける女性の姿。

その表情は、先程と打って変わり、影を落としていた。

＿＿＿

「……A？」

『わ、轟君か……ビックリした』

帰ろうと思っていた矢先、病院のエントランスで聞き覚えのある声がした。

振り返ると、私服姿の轟君がいた。

しかも、体育祭の時から気になってたたけど、いつの間にか名前で呼んでいる。

まあ、お好きにどうぞ。

向こうも私がいたことが予想外だったのか、おう、と言って少し視線を外す。

……なんとなく、気まずい。

いや、円満に終えたはずなんだけど、なんとなくですね。

「今、少しいいか？」

どうしようか悩んでいると、意外にも向こうから声をかけてくれた。

特に帰るだけで用事はなかったので、その言葉に頷いて一緒に病院を出る。

「……どこか悪ぃのか？」

気まずそうに、でも気になった事を聞いてくる轟君。

『ううん。私、ちょっと記憶なくしててさ……言ってなかったよね？今日はその関係で…まあ、大した事ないよ』

「記憶…そうだったのか。悪ぃな、そんな話…」

『隠してる訳じゃないし、全然いいよ』

今度こそ気まずそうに頭をかいた轟君だったが、しばらくするとまた口を開いた。

「悪かったな、体育祭」

『？ああ…』

急に謝られて、一瞬何のことかと思ったが、すぐ悟った。

勝手に怒っちゃったもんなぁ…

そんな事を思い出して、1人焦り始める。

『気にしないで、私の勘違いだったし』

「……嫌いっていうのは？」

『う』

なんだ、根に持っているのか。

いや確かに、嫌いだった。

でもそれは結局私自身の問題だったわけだし
轟君が悪い訳でも＿＿＿

…なくはないか？