side緑谷 ページ34
麗日さんとの電話を終えて、病室に戻る。
すると、そこには飯田君と轟君、そして唯夜さんもいた。
唯夜さんは一人だけ別室だから、後で様子を見に行こうと思ってたが、見た感じ調子は良さそうだ。
お母さんが来ていたと知った時は、かなり気まずく内心ドキドキしていた。
が、向こうもそう思ってるのか分からないが、鉢合わせする事は無かった。
普段結んでいる髪は下りていて、空いてるベッドにちょこんと座っている。
ふと、ヒーロー殺しとの戦いを思い返す。
事あるごとに、強くなっていく彼女。
かっちゃんや轟くんの様な才能があるわけでは無いが
例えるなら、努力で才能に追いつくような人だ。
そして、それを更に越えようとする。
底の見えない貪欲さと、なんでも受け入れられる素直さを持ってる…唯夜さんは、そんな人だ。
それは
.
「あ、飯田くん。今、麗日さんがね……」
ふと、話題をふってみたら、轟君に名前を呼ばれ、制止される。
「飯田、今診察終わったとこなんだが」
そう切り出す轟君。
飯田君は神妙な顔をしているし、唯夜さんも、じっと僕を見つめて黙っている。
なんだか空気が重い。
すると、飯田君が口を開いた。
「左手、後遺症が残るそうだ」
そう言われて、言葉を失った。
腕神経叢＿＿＿＿そこを、やられてしまったらしい。
「とは言っても、手指の動かし辛さと多少のしびれくらいらしく、手術で神経移植すれば治る可能性もあるらしい」
可能性……。
日常生活に支障をきたすほどでは無いが、後遺症となれば相当に落ち込んでるに違いない。
こんな事にならなければ…
僕が、あの時ちゃんと、止めていたなら。
避けられたかもしれない＿＿＿＿
ヒーロー殺し。
奴は憎いが、その言葉は事実だと、飯田くんは話す。
「だから、俺が本当のヒーローになれるまで、この左手は残そうと思う」
「………あ……」
喉まで出かかった言葉。
でも、よそう＿＿＿＿
飯田くんは、もう飲み込んだんだ。
僕が謝るのは……失礼だ。
そして、視線を自分の右手に落とす。
「僕も……同じだ」
＿＿＿＿戒めを、この手に
.
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作者名：noon | 作成日時：2020年9月26日 13時
