あの日手放したものをもう一度【ブルーロック】 (ページ7)

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「A………足はもう平気なの？」

『………日常生活なら問題ないよ』

少しだけ声のトーンを抑えて言う結。

Aは作業している手を止める事なくそう返した。

__________________あの日。

学校の昼休み。

多くの生徒が行き交うそんな場所で。

ドンッという鈍い音と同時にきた強い衝撃。

左足から聞こえた＂プツッ＂というなんとも嫌な音。

近くからは他の女子生徒であろう悲鳴が聞こえた。

……………階段から落ちたのだ。

朦朧とする意識の中で、Aは悟った。

膝の痛みを感じながら周りが騒ついているのをどこか他人事の様に感じる。

自分の名前を呼ぶ大好きな声が聞こえた瞬間、Aは意識を手放した。

まさか、その事故のせいで選手生命が絶たれるとは思いもせずに__________________

「私はAが無事で良かったと思ってるよ……ほら！今だってこうやってサッカーに携われてるし」

『うん、そうだね』

結なりの気遣いだろう。

それが彼女の優しさだ。

Aにとっては、＂サッカーができなくなった＂という事を＂無事＂とは思えなかったが。

勿論絶望していた。

生きる意味すら考えた。

消えてしまいたかった。

でも結が引き止めてくれた。

支えてくれた。

だからせめて……誰かに自分の夢を託したかった。

最高の舞台で、最高の瞬間を。

この目に焼き付けたい。

それこそ、エゴである。

『……そろそろドリンク配りに行こっか』

「あ、いーのいーの！私が持ってくからAはお洗濯お願いっ！足に悪そうだからさ……それにホラ、なんかあんまり馴れ合いたくないみたいだし？」

そう言いながら、いたずらっ子の様に結が笑う。

『バレてたか』

「もう〜何年親友やってると思ってるの？」

今度は怒ったように頬を膨らませる。

そんなコロコロと変わる結の表情に釣られて、くしゃりとAも笑った。

『結、子供みたい』

「ふふっ、私、Aの笑った顔好きだよ」

『照れる』

「え〜まってなんで真顔に戻るの〜！」

すん、と表情を戻すAにもう一度笑いかけて、結はドリンクを運んで行った。