1病名:双生双死 ページ3
「主〜?ねぇ、主ってばぁ」
うたたかの春の陽気には人の心は癒されずにはいられない。現に俺は縁側で酒を煽りながら、のんびり中庭の桜を眺めている。
そんな緩んだ世界から引き離されると、俺は紙越しに顔をしかめた。
「何だ、加州。俺は桜を眺めているんだ、このくらいの暇は貰って良いだろう?」
あからさまに不機嫌な様子を纏う声色に、加州は淡々と返答してくる。
「別に桜より綺麗なもんあるでしょ」
「この時期桜より綺麗なものがあるか。季節の風物詩だぞ」
「例えば俺、とか」
少々的外れな返答をしてくる。
お前は年中風物詩か。冬も秋も夏も同じ会話をした気がするぞ。
「お前は…。…まぁいい、して、何用だ?まさか本当にお前を見続けながら酒を飲め、というのか?」
真っ平御免被る、と口にすると眼前の相手は笑いながら俺の残りの酒を飲み干し、それについて悪びれる様子もなく、そんな訳ないじゃんと足をばたつかせた。
「用って言っても、そんな重要な用じゃないんだけど。…実はさ、安定の傷が俺に付いたり、おんなじこと考えたりするんだけどさぁ」
「何でだと思う?」
突拍子もないことを聞かれても、俺は困るばかりなのだが。
しばらく俺は手を顎に当て少し上を見ながら考えるも、心当たりはない。
それでも加州が真剣な眼差し此方に向けてくるのものだから、困ったものだ。
「そのせいでよく二人で手入れ部屋に行かなきゃいけないの、嫌なんだよね。…双子みたいって言われんの」
ふてくされた様に頬を膨らませる加州に、双子ではないのかと口にしようとしたが止めた。斬られる気がしたからだ。
代わりに俺は、言葉を動作に起こすように干からびている杯に再び酒を注ぎながら、小さく息をついた。
「しょうがないな…。…安定は遠征に行っているから、帰ってきたら俺が聞いておいてやろう」
「あ、本当?…じゃ、頼もっかなぁ」
こうしていると、どちらが主で刀か立場が分からなくなってくる。しかし、隔てた壁の会話などをすることを望む訳ではない。寧ろ、前者を望むのだ。
その時、強い風が中庭を吹き抜けた。
桜の花びらを一瞬にして持っていってしまった風は、その花びらを纏いながら何処ともなく消えていった。
「うわっ…。ちょ、髪の毛がぐしゃぐしゃじゃん…」
「お前は身なりばかりだな…」
直ぐに身なりを整え始める相手に苦笑しながら、俺は酒を飲もうとした。すると、導かれるようにして花びらが水面に落ちた。規則正しく波紋をつくりながら揺れるそれを見つめながら、これが雅というものか、とそのまま酒を口に含んだ。
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作者名:羽黒 | 作成日時:2016年10月8日 17時