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嘔吐感/8 ページ6

 くらりと視界が揺らいで私は瞬きを繰り返す。華の金曜日。プルタブを開けるとプシュ、と炭酸の抜ける音がする。甘い桃味のサワーを喉に流し込むと、また頭がくらくらとし始めた。おかしいな、このお酒、3%くらいしかないのに。それにまだ二本目だ。夜はまだまだこれからだ。けれど私の体はすっかり熱が回って火照っている。力は入らない。もう一口、と口を付けようとすると、缶を取り上げられた。

「飲めないのに無理しない」
「は、っち」

 手を伸ばしても、彼の方が身長が高いので全くもって届かない。だめ、返して。なんて言うと、これ以上は飲むな、と彼は飲みかけのそれに口を付けた。ずるいずるい。私のなのに。

「水飲んで」
「やだあ」
「やだじゃない」

 突然、胸の内から気持ち悪さがやってきて、伸ばした手を引っ込めた。唾液が分泌されて、私は深呼吸して別のことを考え始める。この感覚を知っている。何度か経験している。ふうふうと呼吸を繰り返しながら私は彼の顔を見た。

「吐きそう? 水飲める?」
「の、む」

 そして何度も彼にお世話になっている。口元に水を持ってこられるが、飲むことはできない。どうしよう、戻してしまいそうだ。

「……はあ」

 気持ち悪さの次に頭痛がやってくる。調子乗って飲まなきゃ良かった。いつまでたっても水を飲まない私に痺れを切らしたのか、彼はコップの水をひとくち、口に含んで、私に口付ける。

「ん……」

 ぬるくなった水が私の喉を流れていく。口の端から少しだけ水が零れた。

「俺以外の前で飲むなよ」

 飲むわけないじゃん、こんなとこ、はっちにしか見せないよ。言いたかった言葉は伝えられず、浅い呼吸となって抜けていく。濡れた唇に指が触れた。

「戻す?」

 唇の隙間から指が入りかけている。

「……もど、す、から」

 手伝って。最後まで言わなくても、彼は困った顔をして笑いながら頷いた。

「いいよ」

 こんなことしてくれるの、はっちだけだよ。また頭がくらくらした。

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作者名:ぷりん | 作成日時:2020年11月11日 13時

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