愛情冷めやらぬ/8 ページ50
ココアはすっかり冷めていた。それほどまでに、ただぼうっと、ソファに座っていたのだ。寒さで指先が冷たい。暖めたいけれど、寒くて動くのがどうにも億劫だ。見かねたはっちは私のところに膝掛けを持ってきてくれた。私の膝と、自分の膝に掛けた。何をするわけでもなくただ隣にいる。冷めたココアを飲みながら、冷たい指先を、はっちの手の甲に添えた。
「なに」
「寒い」
「ココア入れ直す?」
首を横に振ると、はっちは私の手を包んだ。はっちは手が冷たそうに見えて、実はとても暖かい。毎年カイロ代わりに、外に出るといつも手を繋ぐ。いつまで経っても恥ずかしそうだけど、家にいると躊躇いもなく自分から手を繋ぐ。
「晩御飯どうする?」
「家から出たくない」
「まあ、俺もそう」
マグカップの中身は空っぽ。はっちの肩に頭をもたれると、はっちの体が硬直した。
「そんなに寒い?」
「寒いのを口実にはっちとくっつきたいだけ」
「……俺でよければいくらでも」
恋人だから、と付け加えられた。はっちの手から伝わる体温が、私の心を温める。うとうとと舟を漕ぎ始めると、「おい」と声を掛けられ起こされた。
「こんなところで寝ようとするな」
「はっちあったかいんだもん」
「お前はすごい冷たい」
死んでるみたいでしょ。なんて言えばはっちは眉間に皺を寄せた。そんな顔をしなくてもいいじゃない。
「冗談でも言うなよ」
「寒いせいだよ」
寒いせいだから来年も一緒にいてね。だってはっちいないと寒いし。誰が私を暖めるの。
「はっち」
「な、に」
こちらを向いたはっちの唇に自分の唇を重ねれば、途端に彼の顔は朱を帯びていく。この反応が好きなので、定期的に見たくなってしまう。
「不意打ちは、良くない」
「どうして?」
「……これ以上好きになる」
いいよ。いつの間にか私の体温は上がっていて、少し暑いくらいだった。重ねた手の熱が溶け合っていく。
「好きにさせてるの」
「ずるいよなほんと俺ばっか好きで」
はっちは知らない。私の方がとって、はっちのことを好きだということを。
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作者名:ぷりん | 作成日時:2020年11月11日 13時