【短編集】それを愛という【実/ｼ兄/者】 (ページ46)

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忘れ物/sgr ページ46

休日出勤なんてクソ喰らえだ。こんなことど口に出したらすぎるが怒るだろう。「女の子がクソ喰らえとか言わない」って。スーツを見に纏いながら何回もため息を吐いた。一方すぎるは今日、休みなので、困った顔をしながら私を見送ろうとしている。今日、急に仕事が入らなければ、すぎるに買い物に付き合ってもらおうと思っていたのに。頬を膨らませていると、ふにふにとすぎるが頬をつついた。

「かわええ顔が台無しやで！」
「いくら可愛くても仕事が入ったらこんな顔しますー」
「帰ったら外食べに行こうや。待っとるから」

　そうやってすぐ甘やかす。どんどんすぎるから抜け出せなくなるのだ。そんなの、甘えていくしかないよね。仕事が悪いし。美味しいものでも食べないと、すぎるに甘やかしてもらわないと、やってられない。

「忘れ物ない？」
「持った。すぎるの美味しいお弁当も」
「忘れたら届けたるから」

　お昼が楽しみでもある。仕事も悪くない？すぎるのお弁当が食べられる。いや頼めば家でご飯作ってもらえるけど。

「忘れもんしてるで」
「え？何も……」

　言い切る前に、すぎるは腕を広げた。緩んだ頬が、少しだけムカつく。忘れ物、だって。広げた腕の中に、私は体を預けると、ぎゅう、と思い切り抱きしめられた。あ、なんか。仕事行きたくないかも。

「よし、いってこい！」
「あと五分……」
「ちょお、遅刻するで！」

　すぎるの胸元に顔を埋めると、小さい子供のような感情がだんだんと芽生えてきた。行きたくない。休みの連絡入れちゃおうかな。せっかくお弁当も作ってもらったのに。

「帰ったら何回でもぎゅってしたるから頑張ってきいや」
「……うん」

　すぎるから離れると、心なしか彼も寂しそうな顔をした。ペットを置いて仕事に行く気分だった。

「行ってきます」

　ぱ、っと笑った笑顔を見ると、私も寂しい気持ちになった。早く帰って、ぎゅってしてもらって、美味しいご飯が食べたい。

「行ってらっしゃい！」

　大きな声が耳に響いた。