お酒のいたずら/3 ページ5
開けた缶の数は覚えていない。二人分のお酒がテーブルに並んでいて、どれも空っぽだ。多分、ほとんどは彼が飲んでいる。私が缶を片付けている間、彼はソファに横になってうつらうつらとしていた。こんな彼は珍しい。最近仕事が忙しかったから、その反動だろう。飲みすぎているのが目に見えている。ある程度片付けたところで彼に声を掛けた。
「しゅうさん……しゅうさん?」
瞼は完全に閉じられていて、すうすうと寝息が聞こえてくる。ああ最悪だ。まさかここで寝るなんて。優しく体を揺さぶった。
「起きてしゅうさん。風邪引くよ」
ピクリとも動かない。私もお酒を含んでしまっているので、若干頭がぼんやりとしている。どうしようかなと考えることすら面倒くさい。
「しゅうさん起きないといたずらしちゃうよ」
知っている。いたずらしちゃうよ、って言って、起きたりなんかしないこと。彼はいたずらされるのを待つだろう。規則正しい寝息は変わらない。本当に寝ているのか。じゃあ好きにしちゃってもいいのか。
「しゅうさーん」
そっと唇に触れた。起きないと、いたずらしちゃうよ。触れた指先を自分の唇に持っていく。何をしているんだろうと顔に熱が集まっていくけれど、酒のせいにしてしまおう。酒が回っているから、体がとても熱いのだ。くらくらして仕方ないのだ。
「しゅうさん」
眠る彼に口付ける。触れるだけ。触れるだけのキス。寝ている彼にこれ以上望めない。耳が熱い。
「何してるんだろ私……」
もう彼を置いて寝てしまおうとソファから離れようとした。が、離れることは出来ずに、手首を掴まれて引っ張られる。
「わっ」
ソファに倒れ込む。彼の上に乗っかる形になった。眠っていたはずの彼の目は開いていて、薄く笑みを浮かべていた。やっぱり、起きてたんじゃん。ずるい。
「もっといたずらしてくれないんですか?」
耳の縁を撫でて、少し赤くなった顔が私の方を見ている。酒のせいだ、これは。遠慮なくと言わんばかりに、私はもう一度口付けた。
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作者名:ぷりん | 作成日時:2020年11月11日 13時