理想は手の中に/lntn ページ40
ー 木々の間に通された、煌めくライトが私には少し眩しいように思えた。隣を歩く蘭たんは、興味なさげにスマホを眺めていた。すれ違う人々は、大体が男女のペアばかり。こんなにいると、私たちもそういう風に見えてしまっていることだろう。けれど実際は、そういう風ではない。今年は彼氏もできずに、男友達の蘭たんとお出かけ……どうして付き合ってないんだと女友達に言われた。きっと蘭たんは私のことをそういう目で見てはいない。と思う。実際は分からない。
「彼氏欲しいな」
ぽつりと飛び出た一言は、運がいいのか悪いのか、蘭たんに拾われてしまった。蘭たんは鼻で笑って、寒さで少し赤くなった顔でこちらを向いた。
「理想高そう」
「そんなことないし」
「じゃあどんな人が理想？」
聞かれると答えにくい。私はうーんと顎に手を当てて頭を捻る。子供の時ははっきりと、そしてざっくりと言うことができたのに、大人になると言葉にすることが難しくなってしまう。
「一緒に服選んでくれたりとか、何もないのに出かけたりとか」
「あとは？」
「あとは……私の事好きでいてくれたらいいかな」
ふーん、と彼は手に持っていたスマホをポケットにしまうと、その代わりとでも言うように、私の手を取る。
「な、なに？」
「それさ、俺で事足りるじゃん」
寒いはずなのに、ぶわ、と顔に熱が広がって、俯いた。とんでもないことを言われている気がする。蘭たんはそういうつもりで言っているのだろうか。
「俺でいいじゃん」
行こうよ。どこに？ 服選んだげる。煌めく光を通り抜けて、私たちは道を外れていく。誰も私たちのことなんか気にしない。今日は蘭たんが、キラキラして見えて眩しかった。
「そっちが言ったんだから、彼氏欲しいって」
「え、でも蘭たん」
「好きじゃないの？ 俺のこと」
そんなことない。だって、これじゃあ、まるでデートみたいじゃん。でも私は、やっぱり上手く言葉にはできないままだった。
「次会った時聞かせて」
今日から彼とは友達ではなくなったようだ。
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作者名：ぷりん | 作成日時：2020年11月11日 13時
