【短編集】それを愛という【実/ｼ兄/者】 (ページ34)

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恋とは罪だ/８,sgr ページ34

すぎるさんの隣を歩いていた彼女はとても幸せそうだった。すぎるさんが羨ましいと、その時思った時には遅い。友人の恋人を好きになるなんて、俺はなんてやつだと自身に嫌悪を覚えた。

「俺の彼女な……」

そう言って彼女のことを幸せそうに話すすぎるさん。やっぱり羨ましいなあと、泥みたいな感情が零れ落ちる。街中ですれ違う二人は俺に気づかない。それでいい、それでいいんだ。俺の事なんか無視して二人で幸せになってよ。でもある日すぎるさんが言う。

「最近よく出掛ける」

彼女がよく出掛けて、一緒に会うことが少ないと。俺は嫌な予感がしたけれど、それを払拭するかのように、「友達が多いんじゃないですか」と答えるしかなかった。そして街中で、彼女を見た。他の人と歩く彼女を。すぎるさんではない誰かと歩く、彼女を。心臓が、握り締められたように傷んで、俺はすぎるさんに、連絡を取るか取らないか迷って。ふと、彼女が、俺がいることを分かっていたかのように、こちらを向いた。

「……！」

怪しく微笑む彼女に、奪われた。奪われたんだ。彼女はどこかへ行ってしまった。ピコンと通知が鳴って、スマホを見れば、「やっぱ疑うのよくないよなあ」とすぎるさんから呑気なメッセージが来ていた。すぎるさん、貴方の彼女今。メッセージを送ることはできなかった。そうしていると、またメッセージが届く。

「この後駅前で待ってますね」

それは、完全に、獲物を狙っているような誘いだった。きっと罠だ。行ってしまえば、一時的に彼女が手に入るかもしれない。それでいいの？すぎるさんの、彼女。でも俺は、彼女を。既読表示をつけて、俺は早足に駅前に向かった。

「あ……来ましたね。はっちさん」

あの時、すぎるさんの隣で笑う君は偽りだったのか。今見ている君の笑顔が本当だったりするんだろうか。手を伸ばせば、罠に掛かる。

「行きましょうか」
「……どこへ？」
「二人でいられる場所」

すぎるさん。俺は思った以上に、彼女を。手を、伸ばした。