経てば忘れて吸われば恋心/3 ページ33
同窓会の飲み会で彼女の隣に座った時、あの時、あの学生時代の時に、置いてきた感情を再び取り戻してしまった。いつも物静かで、読書を嗜んでいた彼女。俺は遠くから、そんな彼女を見つめていたのを覚えている。そしてこの感情は、今思い出すべき感情ではなかった。
「しゅうさんってなんでしゅうさんって呼ばれていたの?」
「……さあ? いつの間にかそうやって、呼ばれてた」
曖昧な返事をして、彼女の質問に上手く答えることはできなかった。そうなんだ、と酒を呷る彼女は、あの時とは違って大人で、綺麗で。俺は何か変わったことなんてあったっけ、と自分の心の内を探る。忘れていた感情を思い出したくらいで、あとは、何もない。
「しゅうさん、よく本読んでる私のこと見てたよね」
「どうだったかな」
バレてたの? なんて余裕じみたことは言えず、焦りだけがそこに生まれた。今になって恥ずかしくなる。バレてたんだって。
「あんなに見られてたら分かっちゃうよ」
私みたいに上手くやらないと。彼女の耳元で揺れるピアスが、きらりと光って眩しかった。
「しゅうさんは、気づいてないんだね。私がずっとしゅうさんを見ていたこと」
さあ、と全身に熱が回って、顔が熱くなる。どうにも、酔ってしまったみたいだ。それは、そういうことを期待してしまう。あの時の感情が戻ってきてしまう。
「ね、この後抜け出しちゃおうよ」
悪戯っぽく笑う彼女は、記憶の中にはない。
「行こっか、二人で」
俺はそれに答えるだけ。だって、思い出してしまったら、それに従うしかないから。彼女は酒のグラスの縁をなぞりながら、ぽつりと呟いた。
「私の方がずっと前から」
そこまで言って、口を閉じた。伏せた睫毛は、あの時の、本を読んでいる時の彼女と、一致する。
「期待しちゃうよ」
「していいよ」
ごめん、と幹事に声を掛けた。俺たち抜けるから、と、もう隠しもせずにそう言った。離れていかないように、掴むべきだ。
「好きだったんだよ」
また彼女は呟いた。
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作者名:ぷりん | 作成日時:2020年11月11日 13時