【短編集】それを愛という【実/ｼ兄/者】 (ページ32)

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一陽来復/８ページ32

大晦日だと言うのに、街中は人でごった返していた。家で過ごせばいいのに、なんて心の中で愚痴る。大晦日も仕事だった私は、ヒールを鳴らしながら早足で帰宅している。どうせ家には私一人だし、帰ったところでテレビを観ながら過ごすだけだ。コートのポケットに入れたスマホが小さく震えた。

「今日は帰れないの？」

地元の幼馴染からの連絡だった。帰れるほど、余裕はない。今から帰ったとしても年が明ける。それならもう、都会の海に一人で溺れてしまったほうがいい。「年始は帰るよ」とだけ返事をして、また歩き出した。再び震えたスマホには気づかない。悪いことばかりだった。年末は。仕事は失敗するし、友達にドタキャンされるし。彼氏はできないし、結婚は催促されるし。込み上げてくる何かを飲み込みながら、自宅へと着いた。

「……あ」
「……え」

マンションの入口に立つ、見覚えのある背の高い男性。彼をよく知っている。私は。

「はっち、なんでいるの」
「帰らないって言ってたから。スマホ見てないの？」

ぱっとスマホを見ると、じゃあそっち行くわと一言、メッセージが来ていた。わざわざ、近くに住んでいた幼馴染が私に会いに来たのだ。そんなことしなくたっていいのに。

「帰らないの？」
「お前が帰らないのに帰れるかよ」

泊まってく、と掲げている荷物を持ち直している。どれくらい待っていたのだろう。とても寒いというのに、外でずっと待っていたらしい。うちに入ろう、と歩きだそうとすると、待ってと声を掛けられる。

「なに？はっち」
「あのさ」

辺りはしんと静まり返った。まるで二人だけになったみたいに。

「来年も一緒にいよう」
「……なにそれ、告白？」
「……そう、だよ」

馬鹿じゃないの、と私は笑ってしまったけど。

「悪くないね、はっちなら」

了承してしまう私にも、笑ってしまいそうになる。込み上げてきていたものはいつの間にか消えていた。

「寒い、早く入ろう」

赤らんだ顔は、寒さのせいではない。