【短編集】それを愛という【実/ｼ兄/者】 (ページ31)

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おいしいごはん/sgr ページ31

すぎるさんの作るご飯はおいしい。自分で作って食べることはあまりないと言っていたすぎるさんは、私の為に料理を振舞ってくれるようになった。二人で一緒の料理を食べるの、なんだか照れてしまうけど、それを上回るほどの幸せを同時に感じている。すぎるさんは私が食べている所を眺めるのが好きみたいだ。時折箸を止めて、子供みたいな笑顔で私を見つめている。

「あっ」

からん、と箸をテーブルに落とした。一瞬目が霞む。箸を拾って、もう一度ご飯に手をつける。やっぱりおいしいな。一口一口噛み締めてしまう。

「今日な、ちょっと特別やねん」
「ええ？そうなの？」
「やからいつもよりおいしいかも」

確かにそうかも、とおかずを飲み込んだ。ぴりぴりとした刺激が舌に走る。隠し味でも入れたのかな。

「あっ」

また箸を落とした。手先が震える。きゅ、と拳を作ると、震えはすぐに収まった。また箸を持ち直して、少なくなったご飯に手をつける。もっと食べたかったな。

「明日はもっとええの作ったるからな」
「これ以上おいしくなったら、私すぎるさんから離れられなくなるかも」
「離れんでええやん、ずっと」

何それ、プロポーズみたい。ふと、体が重くなる。体調悪いのかな。こんなにおいしいごはん食べてるのに。ご飯をあっという間に平らげて、両手を合わせてご馳走様。今日もおいしかったよ、すぎるさん。舌がまだぴりぴりとしている。

「片付け私がするよ」
「ええよええよ、座っとき」
「お手伝いさせてよ」

椅子から立ち上がると、ぐらりと視界が揺れた。目が霞んで、すぎるさんの顔が歪む。

「ほら、無理せんでええから」
「うん……」

再び椅子に座ると、今度は強烈な怠さが襲ってきた。これじゃあ、何も出来ない。すぎるさんのお手伝いしたいのに。手先が震える。少し寒いような気もする。視界がぐらぐら揺れる。すぎるさんは私を見ながら、優しく笑い掛けた。

「明日も楽しみにしててな」

明日が待ち遠しい。ぼうっと、明日のご飯のことを、考えていた。