洗脳済み/lntn ページ30
お前なんかもういらない。何度その言葉を聞いたのか。ヒステリック気味な彼女は、情緒が乱れたときいつも俺に手を出す。その度に俺は、その小さな拳を体で受け止めて、そっか、って抱き締めるばかりをする。すると彼女は大人しくなって、ごめん、ごめんねと顔をぐしゃぐしゃにしながら泣きじゃくる。痛々しい痣が残ることだってあった。でも俺は、全然それでも良かった。彼女を俺に縛り付けることができるんだったら。
「蘭たん……蘭たん……痛いよね、ごめんね、ごめん……」
「……痛い、から、手当てしてよ」
腕には引っ掻き傷があって、俺はそれを指差した。分かった、とふらふらしながら彼女は消毒液とガーゼを持ってくる。ガーゼに消毒液を染み込ませて、引っ掻き傷にそっと当てた。
「滲みる、よね？ ああやっぱり私なんて……」
「またそれ？ 言わないって約束じゃん」
俺を傷つける度に彼女はそうやって口にする。おかしくしたのは俺。俺のせい。おかしくなってほしかったから。だから知らない女と歩いたりしたし、わざと当てもなく出かけたりもした。でもなにかしたりはしていない。
「私、蘭たんしかいないから……」
「いいじゃん俺だけで。ずっとここにいればいいよ」
「でも傷つけちゃう！」
これはお前の愛じゃん。馬鹿みたいなことを言って彼女をもっとおかしくさせれば、より一層、俺のところから離れてしまわないと思った。
「これが普通なんだよ」
洗脳するみたいに言い聞かせて、俺の肌に爪を立たせる。
「俺のこと捨てないで」
なんにもできないみたいに演じれば、彼女はすぐに俺を可哀想だと思う。可哀想なのはどっちだよ。俺は彼女だと思う。こんな俺に縛られて、可哀想。
「すてない、よ」
俺がいきなり彼女を捨てたらどうなるんだろう。ふとよぎった思考。それ、いいかもね。誰に言うまでもなく、頭の中で完結した。
「明日は出かけるから」
顔を歪めて俺を見る。俺だけを見ている優越感。俺は悪くないよ。誰も、悪くないよ。
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作者名：ぷりん | 作成日時：2020年11月11日 13時
