おかえりなさいが聞こえる家/３ ページ29
にゃあ、と猫が鳴いて膝の上から降りていく。帰ってきたみたいだね。あなたのご主人。玄関から鍵を解錠する音がして、私は玄関へと向かう。ただいま、と疲れた顔して笑った。
「今日は早かったね」
「誰かさんが恋しくて、早く帰りたくなっちゃった」
「誰かなー？」
帰ってきたばかりだというのに、しゅうさんはその場に荷物を置いて腕を広げた。はい、なんて言って。欲しいのは自分のくせに。
「はあい、おかえりなさい、しゅうさん」
「んー……やっぱりいいもんですね家に帰ると誰かいるの」
「前は慣れない〜なんて言ってたくせに」
「そうだっけ？」
抱き締められると安心する。ずっとこうしていたいくらい安心してしまう。にゃあ、と足元で猫が鳴く。いつまでやってんだと言うように。
「ご飯にしよっか」
「えー……もう少し……」
そのもう少しを何回聞いたらご飯を食べられるのだろう。せっかく今日はしゅうさんの好きな物にしたのに。デザートだってあるし。また猫が鳴く。
「あつあつだなーって言ってるよ」
「言わせておけばいいんです」
「もう、離れてよ」
私がしゅうさんの体を押すと、彼はあっさり離す。けれどその顔は不満げなので、思わず笑ってしまった。そんな顔を見られるのは、私だけ。私だけの特権。
「あ、こら、なに」
猫がしゅうさんの足元を歩き回る。しゅうさんを置いて、キッチンに戻ってご飯の支度をする。猫と戯れている間に済ませてしまおう。
「置いてかないでくださいよ」
「お楽しみ中みたいだったから」
猫を抱えてやってきたしゅうさん。下ろすとすぐに、しゅうさんは私を後ろから抱き締めた。
「寂しがりなの？ 今日のしゅうさんは」
「……そうかも」
私の左手に自分の手を重ねた。
「まだやっぱり信じられなくて」
「それ、何回言うの？」
頭を私の肩に乗せた彼は、嬉しそうな声を出して、口にする。言う度に、声のトーンが上がって、幸せを含んでいる。
「俺のお嫁さん」
二人分の銀色が光った。
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作者名：ぷりん | 作成日時：2020年11月11日 13時
