【短編集】それを愛という【実/ｼ兄/者】 (ページ27)

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眠れないあなたに/８ページ27

眠れない夜にはホットミルクをなんてよく言ったものだ。全然眠れやしないから、私は持って帰った仕事をこっそりとリビングで消化していた。こんなところを彼に見られてしまったら、早く寝ろと怒られてしまうだろうから、キリのいいところでベッドに戻らなくてはならない。なんて思いつつも仕事にキリの良さなんかなくて、私の呼吸音だけが部屋に響いていた。

「……おい」
「……えっ、はっち？」

低い声にびく、と肩が跳ねた。眠そうな顔と不機嫌な顔。どちらだろう。不機嫌かな。結局私はベッドに戻らずに彼を起こしてしまった。

「起きたらいねえし仕事なんかしてるし」
「ごめん、眠れなくて」
「はい、もうおしまい」

おしまい、は優しい声色なのに顔が不機嫌なので、くすくすと笑うと、「笑ってんじゃねえ」と軽く頬を抓られた。

「俺が寝れないだろ」
「私の為に言ってるくせに」
「そうだよ悪いか」

全然。手を引っ張って私を寝室へ連れていくと、直ぐに横になるように促してくる。はいはいと私が横になれば、はっちも私の隣で横になって、ぽんぽんと私の頭を撫でた。その手はとても優しいから、なあんだ最初からこうしてもらえばよかったなと思う。すぐに眠気がやってきて、うとうとと舟を漕ぐ。はっちの体温が伝わってきて、少し暖かい。さっきまで眠れなかったのが嘘みたいだ。

「寝た？」

寝てないよ。けれど口を開けるほど、もう眠りの波はそこまでやってきていた。ふ、とおでこに柔らかい感触が振ってきて。ドクンと心臓が跳ね上がった。絶対に、起きていたらそんなことしないはずなのに、はっちは。

「おやすみ」

私の頭に手を置いたまま、それきりはっちの呼吸音だけが聞こえるようになった。一方私は、さっきまでの眠りの波は引いて、ドキドキと鼓動する胸の音で起こしてしまわないか心配になってしまった。そして朝、寝坊してはっちに叩き起されて喧嘩になったけど、はっちのせいだからと私は責任転嫁をするしかなかった。