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効かない薬/3 ページ23

 ぽろぽろと涙が溢れて止まらない。止まってくれと願うほど、涙はどんどん溢れる。私のこの感情を抑える薬は、どうにも効いていないらしく、希死念慮がどんどん強くなっていく。早く、彼が帰ってくる前に早く抑えなくては。ご飯も作らなきゃいけないのに。早く。がちゃん、と玄関から音がして、私の息が一瞬止まる。帰ってきた。帰ってきちゃったどうしよう。

「あれ、泣いてるんですか?」
「ごめ、なさ、しゅ、さ……」
「この薬飲まないだけでこんな風になるんですね」

 そう言って私の目の前に掲げた錠剤のシート。私が持っているもの。飲まないって何? 私はさっきその薬を飲んだ。おかしい。どうしてしゅうさんの手元に。

「治してあげようと思って偽薬にすり替えたんですけど、駄目でしたね」

 ひゅ、と喉が鳴る。彼の善意とでも言えばいいのだろうか。偽薬と本物の薬をすり替えた? 治すために? 何を言っているのだろう。

「でも泣いてるとこも、いいなあ」
「何、言ってるの、しゅうさん」

 飲むのやめちゃいましょ、これ。ぽいと薬をゴミ箱に捨てて、泣きじゃくる私に顔を近づけた。

「泣いてるとこ見たいんで、薬なんか飲まないでください。死にたくなったら俺のとこ来てください」

 優しさかエゴか。こんなに苦しい私を見て楽しんでいる。ふと私の中に、気持ち悪さが芽生えて、すっと涙が止まった。

「終わりですか?」

 ぐしゃぐしゃになった私の髪を整えて、頬の輪郭をなぞる。しゅうさんってこんな人? そうだ、こんな人だから好きになった。私にはしゅうさんしかいないんだ。どろりとした気持ち悪さは、きっと気のせいなんだろう。

「おいで」

 おいでなんて言いながら、自分から私を抱き締める。冷たい。外から帰ってきたばかりだから、彼の体は冷たい。

「涙が枯れるまで、見ててあげます」

 離れようと体を押すが、彼は離してくれない。捕まった。そう思うとまた、涙が出てきた。彼の笑い声と私のすすり泣く声だけが、部屋に反響していた。

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作者名:ぷりん | 作成日時:2020年11月11日 13時

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