ナポリタン/lntn ページ22
ぽつり。水滴がシンクの上に落っこちる。きゅ、と蛇口を捻った。そうしたら、この部屋は雨と風の音、そして私と蘭たんの、服の擦れる音とか、呼吸音だけが小さく響く。今日は台風のような天気で、家から一歩も出る予定は無い。ソファでぐったりしている蘭たんに、昼は何が食べたいのと問いかけると、気だるげな答えが返ってきた。
「……パスタ」
「ナポリタン?」
「うん」
ざあ、と勢いのある雨粒が窓にぶつかって、私はカーテンを閉めた。昼時だと言うのに、外は日が落ちているように暗い。カーテンを開けていても意味が無い。
「ねえ」
冷蔵庫から食材を取り出そうとすると、いつの間にか蘭たんが傍に立っていた。
「どうしたの」
眠たげな目がこちらを見て、手がこちらに伸びてくる。私の手を取り、引っ張る。お昼ご飯、と告げると、いいからとソファまで連れて行かれる。
「ずっとここにいてよ」
ソファに沈めばぎゅっと抱き締められる。私の左手の薬指をずっと、指先でなぞっている。
「ずっとはいられないよ」
いつか終わりが来るものだと知っている。雨風の音を聞きながら、蘭たんの心臓の鼓動に耳を澄ませた。彼の温かさと、ゆっくりとした鼓動が心地いい。落ち着く。ずっといたいけど、ずっとはいられない。胸が苦しい、何もかも投げ捨ててしまいたい。
「お昼作ったら、帰るね」
「食べないの」
「食べてから、ね」
蘭たんはまた私の薬指をなぞった。ごめんね、蘭たん。私が悪いんだよ。貴方を忘れられない、私が悪いんだよ。
「外しちゃえよこんなの」
薬指にはめられたシルバーのリングが、彼によって外される。これは私にとっての理性のようなもので。
「返して」
すぐにその手から奪い返して、薬指にはめる。なんて、私は悪い女なんだろう。
「俺と結婚しようよ」
泣きそうな声が、心の底にぽちゃんと落っこちて、染みていく。
「ナポリタン、作るね」
ごめんね蘭たん。愛してるよ。私が地獄に落ちるから、貴方はどうか、幸せに。
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作者名:ぷりん | 作成日時:2020年11月11日 13時