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心の温もり/8 ページ21

 肌を刺すような寒さが押し寄せると、去年の冬を思い出す。きっと来年も、同じように思い出すのだろう。彼女の小さな手は冷たい。手袋を忘れたと言うので手を繋いだ。それはきっと口実に過ぎない。俺にとって。足元でかさかさと木の葉が音を奏でた。乾いた唇が切れる。まだ秋だというのに、すっかり冬みたいな寒さがやってきて、俺たちを飲み込んでいる。

「はっちさん、手が暖かいですね」
「よく意外って言われる」
「ほんと、私も意外だなあって思ってました」

 彼女の手がぬるくなっていく。俺の熱が彼女に溶けていくのを感じてなんだか顔が熱くなった。馬鹿じゃねえの俺、と自分に思うが、手が暖かくて良かったとも思う。

「去年も寒かったですよね、この時期」
「去年の方が寒くなかった?」
「そうですか? うーん……そうかも」

 ひとつ風が吹けば立ち止まる。彼女の髪が揺れて、乱れるのを見て思わず手を伸ばした。

「あ、ごめん、髪が……」
「ありがとうございます」

 髪を整えてあげると、彼女はふいとそっぽを向く。勝手に触れたらいけないだろう。付き合っているとはいえ。

「勝手にごめんね」
「……いいんですよ、付き合ってるんだから、勝手にしてもらわないと」

 こうやって、と繋いだ手を振る。そういえば、手を繋ぐときに何も言わなかったような気がする。また顔に熱が集まっていく。

「はっちさん考えすぎですよ」
「ごめ、慣れてないから」
「慣れてください」

 彼女の手はすっかり暖かいので、今度は空いている手を取った。繋いでいないのに、何故か少し暖かい。

「ちょっと、照れちゃいました。はっちさんが照れてるから」
「照れてねえ」
「暖かいですね」

 公衆の面前で何をしてるんだと言いたいが、それが気にならないくらい。

「……す」

 き。まだちゃんと言うことはできない。どうしても。いつか言うから。ちゃんと。

「私もですよ」

 冷たい風が体を貫いた。寒いはずなのに、どこか暖かくて。また歩き出した。

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作者名:ぷりん | 作成日時:2020年11月11日 13時

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