胸を刺す/lntn ページ16
※そういう雰囲気あり
欲しくなったから。どうしても。自分のことを我儘だと思ったことはあるけど、ここまで酷いなんて思っていなかった。隣で眠る彼女の髪を指に通すとサラサラ流れ落ちていく。見えるようにつけた首元の無数の痕が、白い肌に映えるように咲いていた。彼女のスマホが震えている。手に取ってみると、相手の名前に、笑ってしまった。眠る彼女を揺り起こす。
「ねえ、スマホ鳴ってる」
「ん……誰……」
「大事な人」
パッ、と彼女は飛び起きると、スマホを持っている俺を見て青ざめた。
「返して……!」
「なんで? いいじゃん。俺が出ようか?」
やめて、と震えた声で言われて、俺は彼女にスマホを差し出した。彼女は電話に出ると、深呼吸をして状態を落ち着かせている。
「はっち? あのね、昨日は……えっ? なんでそれ、を」
綺麗な瞳からぽろぽろと涙が零れていく。ごめんね、もうはっちに言っちゃった。俺といること。だってそうしないとはっちのところに戻ろうとするでしょ。喧嘩して俺に頼ったのが悪いんだよ。
「はっち、ごめんなさい、はっち……!」
電話は切れてしまったみたいだ。あーあ、と言葉を投げ掛けた。
「もう俺しかいないね」
「……私のせい」
「そうだよ」
だからずっと俺を見てればいいよ。直ぐに喧嘩しちゃうはっちじゃなくて。大丈夫、はっちとはこれからも上手くやっていくつもりだし。はっちは、どうかな。元に戻れるならいいけど。
「蘭たん、どうしよう……」
「俺がいるよ、俺がいるから」
胸が痛かった。そっちが悪いのに、どうしてこんなに心が痛いの。
「帰らなきゃ」
「どこに?」
もう帰る場所ないでしょ。俺のところにいなよ。いてよ。
「駄目だよ行ったら」
彼女を押し倒せば、泣きそうな顔でこちらを見ていた。やめて、俺が、惨めみたいじゃん。こんなことでしか彼女を手に入れられない。
「好きって言ってよ、俺を」
首を静かに振る。気持ちを押し付けるように口付けた。一度も俺の想いは、届かない。
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作者名:ぷりん | 作成日時:2020年11月11日 13時