今日は帰らない/lntn ページ2
高校の友人に会って久しぶりに盛り上がった。友人、と言えばいいのだろうか。一度も友人とは思ったことはない。けらけらと笑う低い声。私は彼を一度も友人としては見ていない。一人の異性として見ている。帰りたくないな。仕事が辛かった。一人が辛かった。みんな頑張っているからと言い聞かせて自分の体に鞭を打っている。彼に会ったせいでだんだんと限界になってきてしまった。改札口の前に立った時、私は現実に引き戻されてその場にしゃがみ込んでしまった。
「ちょ、大丈夫？ 酔った？」
力なく首を横に振る。この改札口を通り抜けたらもう彼に会えない気がする。そんなわけない。彼はこうして私に会ってくれた。時間が無いのは私の方だ。
「かえりたく、ない」
声を絞り出したと同時に涙が溢れた。蘭たん、と涙声で名前を呼ぶと、無理矢理立ち上がるように支えられる。
「帰んなくてもよくない？」
今夜はオールかー、と私の前を行く蘭たんの手を握り返した。彼は高校の時こんなに優しかっただろうか。好きだと思った。この気持ちを隠し続けている意味はあるのだろうか。
「泣き顔ブサイク」
「うるさい」
立ち止まって私の涙を拭ってくれた。その優しさにさらに涙が溢れてくる。それを見て彼が笑って、「情けないなあ」と零した。
「俺の知ってる顔はもっと可愛いんだけど」
ずず、と私が鼻をすする。今なんて、と聞き返すと彼は私から顔を背けて「何でもない」とぶっきらぼうに言葉を投げた。ちゃんと聞こえていた。だからこんなに今顔が熱いのだ。泣いてるせいもあるけど、もっと熱くなった。
「ねえ蘭たん」
「なに」
夜の空気を肺に取り込む。噎せるくらいに。
「好きだよ」
眠たげな目がこちらを見て、口角が上がった。
「知ってる」
ぶわあと全身に熱が巡って、指先まで熱く、溶けてしまうんじゃないかなんて馬鹿みたいなことを考えている。彼の頬が微かに朱に染まっているのが見える。
「俺はもっと前から好きだったよ」
また歩き出した。今日はもう帰さないからって、彼は言った。遠くで電車の、最後の発射音が聞こえた。
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作者名：ぷりん | 作成日時：2020年11月11日 13時
