虎の娘《５》 (ページ3)

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しばらく抵抗していると母は諦めて部屋に入っていった。

まさかと思って少しだけドアを開けて外を確認するとまだそこにはうみが居た。

目が合うと分かりやすく心配の目を向けてくれてそれだけで安心感と申し訳なさで泣きそうになる。

中村「…誰か居るの？大丈夫？」

抵抗していた時の口喧嘩も全て聞こえていたのか小さな声で私の涙を拭いながらそう聞いてきてくれるうみに全て話してしまおうかと思ったけど、さすがにそれは出来なかった。

一度うみの優しさに触れてしまうともう母に対抗する気も無くなってしまって玄関の前に置いていた荷物を取ってそのまま家を出た。

多分今日帰ったら信じられないぐらい怒鳴られる。

でも、もう良い。とりあえず今だけはうみと一緒に居たい。

中村「…出てきて良かったの？」

A 「もう良い。明日私ボロボロかもしれないけど癒してね(笑)」

中村「そりゃもちろんだけど」

電車に乗っている時もずっと恐怖心で震えが止まらなくて、そんな私をうみは心配そうに見つめながらも詳しくは聞いてこなかった。

中村「今日俺の家来る？」

A 「…それが出来たら良いんだけどね、」

さすがに彼氏の家とは言わないけど、大学も休んでいる以上お泊まりが出来るほどの距離感の友達が居ないことは一瞬でバレてしまう。

帰らなかったら帰らなかったで余計叱られる。

何に関してもマイナスな考え方しか出来なくて少しずつ自分でもイライラしてくる。

事務所に着いてからもずっと俯いて自暴自棄になりかけているとうみが抱きしめてくれた。

中村「大丈夫。Aは間違ってない。負けちゃダメだよ」

口喧嘩の間に言っていたのか分からないけど、うみは私が遅れた理由も悩んでいることも全て察しているみたいだった。

優しくそう言ってくれるうみに少しだけ元気をもらってなるべくいつもと変わらない笑顔で楽屋に入る。

A 「おはようございます、遅れてすみません」

松田「あ、Aちゃん来た！どうしたの、大丈夫？」

A 「なんかちょっと立ちくらみしちゃって(笑)薬飲んだら落ち着いたから大丈夫」

そう適当にはぐらかしていつもと変わらず仕事に入る。