虎の娘《５》 (ページ12)

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しばらく屋上から下の車の流れを眺めているうちに仕事が始まる時間になった。

A 「…なんかもういっか」

結局あれで母が何を宮近に言ったのかは分からないけど、「アイドルをするな」というニュアンスだということは何となく分かる。

多分無理して行ったところで宮近に程よく制限される。

なら、もう私の方から全部完璧に辞めてしまえば良い。

そう思って荷物を持って下まで降りて事務所を出る。

今まで委員会も当番も自由参加の授業ですら親の言うことを聞いてほぼ遅刻ゼロの無欠席で来た私が無断で仕事を休むのは大変かと思っていたけど意外とそうでも無かった。

唯一みんなの声が響いている楽屋の前を通る時だけは胸が痛かったけど。

一度楽屋に行ってしまったせいで「体調不良」の理由は使えないから、鳴り止まない心配の連絡にどう返事をすれば良いのか事務所近くの公園で迷っているとスマホを片手に焦った表情をしながら公園の前を走っている元太と目が合った。

松田「Aちゃんスマホ見てるじゃん、なんで何も返事くれないの」

A 「…宮近、なんか言ってた？」

松田「え、ちゃか？…分かんない、心配はしてたけど」

母に色々言われるのはもう慣れてしまった。

でも信頼していた人をそっち側につけるなんて聞いてない。

宮近からもあの話をされることになるのかと思うと怖くて自然と声が震えてしまう。

A 「心配してた？仕事来ていいって言ってた？」

松田「…どうしたの、何かあった？」

ずっと涙目で必死に訴える私が可哀想に見えてきたのか元太は黙って隣のベンチに座ってくれる。

A 「…宮近私が仕事しまくってるの嫌いだったもんな、仕方ないか」

松田「ちゃかになんか言われたの？」

A 「…元太は私の味方で居てね」

元太の質問は無視してベンチを立って駅の方向に行こうとすると元太に止められた。

松田「ねえ、今日オフ？違うよね？あれだけ連絡あったんだもんね、分かってるよね」

まっすぐ目を見て言ってくるその言葉には勝てなくて結局また事務所に向かってしまう。

公園はそこまで遠くなかったから事務所まではあっという間に着いた。