虎の娘《３》 (ページ32)

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それからしめちゃんは楽屋の洗面台をしっかり使ってデート前の女子大学生並に丁寧に肌の手入れを始めた。

私は何となく楽屋に行ってひとりで練習する気にはなれなくて、許可を貰ってこの部屋に居候している。

A 「…しめちゃんってほんとに尊敬出来る」

七五三掛「思ってもないこと言うのやめた方がいいよ。」

つい本音がこぼれてしまうと自前のタオルで丁寧に顔を拭いているしめちゃんにさらっと流される。

しめちゃんって堂々としてるけどだからと言って全部完璧だって思ってるわけじゃなくて、自分の足りていないところもちゃんと分かってるから絶対有頂天にはならないんだよね。

それも含めて尊敬してる。

でも、しめちゃんが普段から甘やかしているメンバーからの褒め言葉以外素直に受け止めないことは分かっているからもう何も言わない。

A 「…しめちゃんって何でそんなに頑張れるの」

こんなに朝早くから来て本気で褒められたいと思っているわけでもなく、誰にも気付かれずひとりで努力し続けるのなんて私なら絶対途中で心が折れてしまう。

七五三掛「…わざわざ自分の嫌いな自分をみんなに見せる必要無いでしょ」

私は宮近や閑也にたくさん愚痴って相談に乗ってもらってやっとこのレベルなのに誰にも頼らず何で…と思っていると迷いなくしめちゃんがそう答えた。

七五三掛「ほんの2時間弱頑張るだけで好きな自分に変われるんだよ、逆に何でやらないの？って感じなんだけど」

淡々とそう言うと時間になったみたいでしめちゃんは荷物をまとめ始めた。

七五三掛「あ、そういえば俺と一緒に楽屋入ったら気まずくない？先行っていいよ」

あんなに散らかっていた大量のグッズを慣れたように集めてかばんに入れて私に先に行くように促してくれる。

今日はしっかりうみも起きたみたいだし素直にそれに従ってしめちゃんより少し早く楽屋に入ることにする。

それからしばらくしてしめちゃんはいつもと同じように本当に今来たかのように楽屋に入ってきた。

何事も無かったかのように当然のように笑っているしめちゃんを見て私ももっと頑張らないといけないと思った。