50話 ページ50
そして割かし落ち着いた頃。
女はパートナーと過ごした日々を思い出して泣いた。愛した人を殺めて後悔しているのではなく、あんなやつに時間と金を割いたことに対して流す涙である。
あくまで被害者は自分で、自称悲劇のヒロインだった。
今もなお降り注いでいる雨は、女がやった悪行の証拠を全て洗い流してくれていた。手を染めた血も雨粒と共に排水溝に流れ落ちた。感情剥き出しのままに実行して汚れた上着は、雨避けに路上生活者が拾って行った。
そして、女は一度沸騰した頭を冷ますように雨に打たれた。外見、行動、思考、その全てが異常だった。
その女の数十メートル後ろに銀髪の少年はいた。まだ5歳くらいだろうか。防水防寒のレインウェアを着て、フードを深く被っている。身長や体型は幼い子どもだが、纏う空気はプロと相違ない。
道路沿いの建物を駆使しながら後をつけ、足音と気配を殺して消して女を尾行していた。
少年は父親から尾行ごっこという名の課題を出された。予め対象は決められており、大雑把な情報のみ与えられる。｢ごっこ｣という聞こえは可愛らしいが、決して子どもの遊びなどの生ぬるいものではなかった。
一瞬の油断も隙も許さない。見つかったら最後である。
尾行ごっこは対象に気づかれたらそこで終了。すぐにその場から離れ、指定の場所で父親と落ち合う。また、一定の水準までクリアと認められた場合、通信機器に連絡が入り終了となる。
この課題中は父親が少年の行動をどこからか監視しているという。暗殺者また念能力者としても一流の技術を持つ父親の気配など誰も分かりはしない。対象を尾行する少年を尾行する父親という奇妙な位置関係が成り立っていた。
少年は女の観察に神経をすり減らしていた。
この尾行は少年になんのメリットもない。対象の情報を得るためでも、始末するためでもない。必要なスキルを習得するためだけだ。実践を積み重ねていくほかは無い。
これもプロになるための過程のひとつだった。
そのため、ただ自分を危険に晒し、僅かに聴こえる布切れの音にさえも注意を払った。本番と変わらないリアルな緊張感が少年を成長させた。
この尾行ごっこは少年が3歳のときからやってきた。
どの対象も裏社会で生きるやつらで、暗くじめじめとした所を好んだ。多くの敵を作り常に周りを警戒していた。
しかし、それでも誰も少年に気づくことはなかった。
底知れぬ才能の蕾が徐々に開き始めていたのだった。
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マニ。(プロフ) - 連載の方とかの新しい作品とか待っています！これからもボードの方でも仲良く、ファンとして遠くから応援してます！おかか様！ (10月8日 9時) (
レス) id: e240ea4865 (このIDを非表示/違反報告)
おかか(プロフ) - 千凪さん» ありがとうございます。嬉しいです！ (2022年3月10日 14時) (レス) id: 9b9f4760f3 (このIDを非表示/違反報告)
千凪(プロフ) - すごく面白いです！続きがとても楽しみです (2022年3月9日 7時) (レス) id: 129c41ba6d (このIDを非表示/違反報告)
おかか(プロフ) - リトさん» コメントありがとうございます。感想を頂けて嬉しいです！頑張ります！更新は遅いですが今後も読んでもらえたら幸いです。 (2022年2月28日 21時) (レス) id: 9b9f4760f3 (このIDを非表示/違反報告)
リト - とても面白かったです!お話作るのが上手で尊敬してます。無理をせず更新頑張ってください。いつでも待ってます。 (2022年2月25日 2時) (レス) @page29 id: 2df230b8f3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：おかか | 作成日時：2022年1月23日 14時
