18話 ページ18
Aの部屋で標本作りが行われた。Aは自分で研究をするようになってから、ちょっとだけ清潔不潔に気を使うようになった。外から入ってきたら手を洗い消毒をするのをイルミにも求めた。潔癖とまではいかなかったが、多少気になるところがあった。
ラックから標本作りに必要な道具を取り出して準備をする。その際に前に作った蝶の標本も取り出して傍に並べた。どれも翅の模様や色彩が美しく、今にでも飛んでいきそうな質感やリアルな状態が保たれていた。
｢こんな感じになるよ｣
Aが道具の名前や注意点などを丁寧に説明をしながら作業していった。展翅板という翅の形を整える道具の上に、針を刺した蝶を固定して羽の位置を決めた。
そして、まち針を使って固定していった。
イルミはAの隣に座ってその様子を眺めていた。数回しか経験していないと言っていたが、次々と流れるような手つきだった。
イルミは自分が標本を作るのは、後にも先にもこれっきりだろうと思っていたので聞き流していた。Aが作った完成品をどこに置こうかと考えていた。
｢ねえ、なんか付けてる？｣
｢なにが？｣
｢唇｣
ふいにイルミは気になった。作業が単調になっていたからか、集中力が切れたというか興味の矛先が変わった。Aのペールピンクの唇に薄らとダークニュアンスなレッドが色づいていた。
いつもと比べて血色が良く少し艶やかで熟れたイチジクを連想させた。
イルミが｢買ったの｣と聞けば、手元からは目を離さずに｢ママから貰った｣と答えた。視線を下に向け、瞳を半ばまぶたで覆った表情には儚さを感じさせるものがあった。
瞬きをする度に揺れる睫毛。
薄らと艶やかに色づいた唇。
Aの横顔がイルミの知っているものでは無かった。
｢Aはこんなの付けなくていいよ｣
イルミはそう言って自身の親指でAの唇を拭った。下唇の半分が指の腹に押し付けられて沈み、ふっくらとしたそれは柔らかく僅かな反発があった。途中からなんとも奇妙なグラデーションを描いた。
触れた時間は数秒にも満たなかったが、その動きがAには非常にスローモーションに見えた。いつの間にか手が止まりイルミから目が離せられなかった。
モノクロームの彼に移った鮮やかな色が余計に違和感を際立たせた。
混濁のなかでAの『 』をイルミは半分奪い去っていった。言葉足らずなその行動はAを困惑させるものだった。
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マニ。(プロフ) - 連載の方とかの新しい作品とか待っています！これからもボードの方でも仲良く、ファンとして遠くから応援してます！おかか様！ (10月8日 9時) (
レス) id: e240ea4865 (このIDを非表示/違反報告)
おかか(プロフ) - 千凪さん» ありがとうございます。嬉しいです！ (2022年3月10日 14時) (レス) id: 9b9f4760f3 (このIDを非表示/違反報告)
千凪(プロフ) - すごく面白いです！続きがとても楽しみです (2022年3月9日 7時) (レス) id: 129c41ba6d (このIDを非表示/違反報告)
おかか(プロフ) - リトさん» コメントありがとうございます。感想を頂けて嬉しいです！頑張ります！更新は遅いですが今後も読んでもらえたら幸いです。 (2022年2月28日 21時) (レス) id: 9b9f4760f3 (このIDを非表示/違反報告)
リト - とても面白かったです!お話作るのが上手で尊敬してます。無理をせず更新頑張ってください。いつでも待ってます。 (2022年2月25日 2時) (レス) @page29 id: 2df230b8f3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：おかか | 作成日時：2022年1月23日 14時
