捌 ページ3
＊
｢……それで、大変だったんだから〜〜っ！！｣
｢はは、寧々も大変だなぁ……｣
いつもより多く出た課題の量に絶望した僕達は、放課後の屋上で日光浴をしながら課題をこなしていた。
……が、お互いが段々と最近の出来事を報告し始めて 定期開催されているかもしれない報告会が始まった。
ちなみに寧々は僕が年甲斐もなく迷子になっている間に、人魚姫にされかけたらしい。
いいじゃん人魚姫……お姫様とか、寧々がものすごく喜びそうだけど。
まあ、空想の中の話と実際に起きた話って違うよね……え、違うよね？
｢ほんとに、花子くんったら何を考えてるのかしら……｣
｢花子くん、同級生だったら絶対毎日先生に呼び出されるタイプだよね〜｣
｢もう、本当に！｣
ばんっ！とノートを叩く寧々。
横線が入っているシンプルなノートには、可愛らしい絵柄で魚の絵が描かれていた。
｢あ、そういえば……｣
｢ん？｣
｢花子くん、その時に……弟を殺した、って、言ってたの……｣
｢……そっか｣
目の前の寧々は ふと思い出したらしく、言葉を詰まらせながらもそう教えてくれた。
弟を殺した、かあ……
もし、僕の記憶の中にいる彼が 花子くんの弟だとしたら……
僕は、できたら彼のことは思い出したくないなぁ……なんて。
多分、防衛本能……ってやつ、だと思う。
｢どうしたの？｣
｢……あ、いや！なんでもない！｣
色んなことを考えているうちに、とある一言が僕の頭をよぎった。
不思議そうに僕の顔をのぞき込む寧々にそう伝えてから、そっと立ち上がった。
｢僕、忘れ物してきちゃった！
取ってくるから待ってて！｣
｢え？あ、ちょっと！｣
屋上のドアを抜けて、踊り場にしゃがみこむ。
｢…………｣
駄目だ、寧々と話してると 嫌でも思い出してしまいそうだ。
思い出したくない、思い出したくない、思い出したくない。
繰り返す度に、あの日あの場所で見た文章がフラッシュバックする。
誰にも迷惑かけたくないのにな……これじゃあ、迷惑かけてるだけだ。
｢はは……｣
乾いた笑いが、誰もいない踊り場に響いた。
───
─
｢夢乃、どうしたんだろう……？
荷物は全部持ってきてるはずなのに……｣
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