→続き ページ7
「…ええなぁと思ってた子に告白されてな」
─────時間が停止した。
あるいは空気が凍った，とでも言うのだろうか。
生徒会室がもやもやとした，ほろ甘く一方では苦々しい物質で飽和し，ひどく息が詰まった。
きっと，まだ息をする気道が残されている俺が，堰を切らなきゃいけない。そんな気がした。
「返事は？」
「一応……OK出した」
口角がとうに緩み切っている幸福の具現のような彼から，そのセリフが生まれるのは，もう分かりきっていたことじゃないか。
「おめでとうございます！！」
途端，彼女のはつらつとした声が生徒会室に響く。
その声に驚いたコネシマさんは，少し肩をビクリと跳ねさせると，短めの眉を少し下げ照れくさそうに，ありがとう，と言葉を紡ぐ。
続けざまに彼女はいつもとなんら変わる様子もなく，明るい笑顔で提案する。
「お祝いにいつものお好み焼き屋さんでも行きますか？」
「あ，いや，すまん。今日は一緒に帰る約束してんねん。やし今日はちょっと早めに上がらせてもらうわ。また今度行こな」
「はい！今度，惚気話聞かせてくださいね」
……なんてほほえましい光景だ？
笑顔の二人を見ていると，なんだか俺だけが状況を理解できていない邪魔者のような気すらした。
俺の勘は本当に外れていたのか？
だが，どうにも俺には，Aがなにか抑えきれないような莫大な感情を，さらに捏造された大きな感激やリアクションで押さえつけようとしているようにしか見受けられなかった。
先入観のせいなのかはわからないが，コネシマさんを心の底から祝福していたAに，なぜか少しの含羞を感じる。
──だけど，本当にそれでよかったのか…？それで…
「じゃあな」
コネシマさんの顔は夕日を浴びていて，俺とは違う，どこか遠く眩しかった昔のコネシマさんにしか見えなかった。
「お疲れさまでした」
テンプレの挨拶をかわし，心なしか軽い足取りで，橙に染まった廊下へ歩いて行った。
教室に残された俺たちふたりの空気はその軽さとは対極だった。
その次にとるべき行動として，さまざま脳内で葛藤を繰り返したが，適解は思い浮かばず。
淀んだ飽和の中にいる俺たちはなんの言葉も交わさずに，仕方なくもただただ目の前に転がる事務作業やタスクの消化に努めることしかできなかった。
先ほどのことを思い出すたび，俺は次にAに切り出す言葉を何度も何度も脳の中で反芻する。
あれでもないこれでもない，とあらゆる慎重な選択肢たちは淘汰され，俺自身といっしょに失望の底に沈んでいくのだった。
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作者名：AKIRA | 作成日時：2019年1月29日 1時
